成仏しきれない霊を集める男

行列

 

これは、母の話です。

 

実家がお寺の母は、『霊感がとても強い』こと以外は普通のシングルマザー。

 

その霊感、どれくらい強いかと言えば、こんなエピソードがあります。

 

母が学生時代にコンビニでバイトをしていた頃、近所に住むご老人にお釣りを渡そうとして指先が触れ合った瞬間、母は昏倒してしまいました。

 

3日ほど目を覚まさなかったらしく、意識のない間、その老人が部屋で死に行く様を夢で見ていたそうです。

 

目を覚ました後にその老人宅へ行ってみると、案の定、亡くなっていたそうです。

 

母はそれ以降、接客業には就いていないらしく、また不用意に他人と接触しないよう、満員電車などにも絶対に乗りません。

 

この他にも沢山の奇妙な体験話を聞いたのですが、その中でも私が一番怖かったと感じたものをお話します。

 

離婚したばかりの母は新しい就職先が見つかるまでの間、実家のお寺付近にあるアパートで私たち子供と暮らしていました。

 

そんなある日のことです。

 

子供たちは学校に行っていて就職のための面接予定もなかったので、母は家で一人して求人誌を読みふけっていました。

 

その時にふと、何か窓の外に気配を感じて視線を向けた母は、心臓が止まるんじゃないかと思うほど驚いたそうです。

 

窓の外には、数え切れないほどの大勢の人々が列を成して行進していたんだとか。

 

当時の部屋は2階にあり、ベランダもありません。

 

つまり、その人々は宙を歩いていたのです。

 

それによく見ると、その行列の人々は日本人どころか東洋人ですらありません。

 

母曰く、エジプトでピラミッドを建設していそうな見た目と服装だったと。(私には想像しにくい例えでしたけれど…)

 

奴隷のようだったり、普通の身分のようだったり、金持ちそうだったりと、ぱっと見の彼らの身分は様々だったそうです。

 

中には古めかしい様相だけれど、近代的な人も。

 

老若男女も問わず。

 

そんな行列が進む中で、一際着飾った男が窓の前を通りかかった時でした。

 

母は直感的に「あっ、これが親玉か」と、わかったそうです。

 

曰く、基本的に自分は人や土地、あるいはそこに憑いているものの記憶や思念などが、映画やドラマのような映像となって頭に流れると。

 

そんな母も、こんな風にハッキリと見たのは初めてだったようで、驚きのあまり、目を逸らしたり気づかないフリもせず、まじまじと見つめてしまいました。

 

そして、母は親玉に気づかれました。

 

目が合うと、親玉は「ニタァ」と笑ったそうです。

 

その瞬間、いつものように母の脳裏には、映像がものすごい勢いで流れ込んできました。

 

この親玉はかなり古い時代の呪術師のようで、この行列もこの男が集めたものだと悟りました。

 

なんでも、“全国各地を行脚しながら、成仏しきれない霊を自分の仲間に引き入れて力をつけている”と感じたそうです。

 

その時、母は失神しました。

 

そんな母以上に霊感や法力の強かった、住職でもある祖父が強烈に嫌な予感を感じ、すぐさまアパートにすっ飛んで来たそうですが、その頃には母は泡を吹いて痙攣していたそうです。

 

その後、急いで御祓いが成されて意識は取り戻したものの、それから数年間、母は酷い体調不良に苦しみました。

 

当時、私はまだ幼稚園児と幼くはありましたが、死人のような顔色で無理に働きながら、実家で御祓いを続ける母の姿をよく覚えています。

 

今はもうすっかり元気な肝っ玉母ちゃんに戻り、怪談話としてこの話をよく聞かせてくれます。

 

「あの行列が何だったのか、あの男が何の目的で力を欲しているのかはわからない。あれは天災のようなもので、出会ってしまったのは本当に運が悪かった」

 

母は、そう言って苦笑していました。

 

中でも私にとって最も恐ろしかった母の言葉は、「おじいちゃんがいなかったら、今頃お母さんは狂い死にしてあの行列の仲間入りしてたろうね。あの男はそのつもりだったよ」と。

 

(終)

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