夜でも黒髪が綺麗に見えた日本人形の怪
これは、人形にまつわる少し怖い思いをした話。
私の家には『古い日本人形』がありました。
この人形は本家から貰ってきたもので、年月が経っているせいか、少しだけ顔が黒ずんでいました。
私が初めてその人形を見た時は、「気持ち悪い人形貰ってきたなあ」くらいに考えていましたが、家族には高価な物に見えたのか、妙に大切に扱っていました。
それから数日後の夜のことです。
私は夜中にトイレに起き、2階から1階のトイレに向かう途中で人形を見つけました。
その人形は夜でも髪が綺麗な黒色に見えて、「なるほど、大切に扱うわけだ」と納得し、トイレに駆け込みました。
そして用を終えて2階に上がろうとした時、視線を感じて振り向きました。
でも何もなく、なんだったのかと注意深く見渡していると、人形が目に入ってしまい、「まさか…」と少しの間見ていると、ゆっくりと長い時間をかけて首をこちらに向けてきたのです。
視線が合い、背筋に電気が走りました。
私は慌てて2階へ上がって家族の元に行き、「人形の首がこっちを向いたよー!」と必死に叫びました。
家族全員が起き出して、とりあえずみんなで1階へ行くことに。
そして階段を下りてすぐに、全員が「うわ…」と呟いて息を飲みました。
人形の首はこちらを向いたままでした。
ケースの中に入った人形は、向こうから階段を見ています。
父が人形の首を元に戻し、家族は居間に集まって話を始めました。
「イタズラではないよ!」
まず私はそう言い、家族に理解してもらいました。
話し合いの末、後日に本家へ「この人形はどういう物なのか?」と聞いてみることで、その場は終わりました。
翌朝、本家と連絡を取り、人形を返すことになりました。
しかし、人形は本家の方でも事を起こしたようで…。
「1階から2階へ階段を上る足音がする」
「少しづつ顔が剥がれてきている」
「夜中に部屋を走り回る」
など、“まるで生きた子供のような行動”をし続けたようです。
人間に危害を与えていないか聞くと、そういったことは一切ないと言われ、「たぶん小さい子供が居るんじゃろう」と納得されてしまいました。
その後も人形は活動し続けたそうですが、ある日を境にピタリと活動を止めたそうです。
そんなある日のこと、本家に遊びに来ていた私が「その人形どうするの?」と質問すると、「山の川に流す」とのことでした。
なんでも、昔からの習わしだそうです。
そして「一緒に川に流そう」と言われ、人形を持って山へ向かいました。
その道中、こういう物が他にも本家にあるのか聞いてみると、「昔はあったが今はもうない。いつの間にか消えた」と言われました。
川に着くと、人形には丁寧に布を何枚も重ねて、頭を下流の方向に向け、ゆっくりと人形から手を放しました。
人形は川を下っていき、次第に見えなくなり、「じゃあ、帰るか」と元来た道を戻っていきました。
途中、「後ろを振り返ってみ」と言われたので見てみると、小さな人影が川の方から手を振っているように見えました。
あとがき
最後、もしかして振り返ってはダメなやつでは?と思われるかもしれません。
私としては手を振るのは別れの挨拶だから、「短い間だったけどバイバイ」と、人形との別れを受け入れていました。
本家の方も、人形との付き合い方やお別れの仕方を熟知しているのでしょう。
(終)