今でもあの木にぶら下がっているのでは

森林

 

それは、数年前の冬のこと。

 

学校へ行くために自転車をすっ飛ばしていた。

 

自宅から学校へ行くまでの道は二つあり、一つは信号の多い大通りで終始平坦な道、もう一つは坂が多く人通りの少ない路地だった。

 

坂が多い道は一見何のメリットもないように思えるが、なぜかこちらの道を通ると5分ほど早く学校に着いた。

 

ただ、いつも時間に余裕を持って学校へ行っていたので、坂道を使うことはほとんどなかったが。

 

しかし、その日は朝からトイレに篭り、家を出るのがいつもより10分ほど遅くなってしまった。

 

止むを得ず、坂道を使うことに。

 

その道の周囲に不気味さを感じていたこともあり、前だけを見て自転車を漕いでいた。

 

だが、あと少しで路地を抜けるかという時に、またもや痛恨のミスをしてしまう。

 

左ポケットに入れていた財布がないことに気づき、慌てて戻る。

 

財布は、すぐに見つかった。

 

30メートルほど戻った辺りの、茂っている林の前に落ちていた。

 

そして財布を拾って顔を上げたその時に、目の前の林にあるものを見てしまった。

 

不気味だからと見ないように視界の端に入れていただけのもの。

 

それまではサンドバッグか手作りのブランコかと思っていたもの。

 

目の前には、入学式で着るような正装をした幼稚園児の首を吊った体が、林の中の木にぶら下がっていた。

 

冷たい風が吹く度に、ざわめく木々と共に小刻みにゆらゆらと揺れる手足。

 

それはまるで昔からそこにあるかのように馴染んでいた。

 

その雰囲気に腰を抜かしてしまう。

 

動揺して警察に通報するといった判断はできず、急いでその場を離れた。

 

学校でも怖くて誰にも話さず、以降あの道は二度と通らず、結局は有耶無耶のまま日が過ぎていった。

 

あれは未だに新聞やテレビを見ても報道されたような痕跡がない。

 

実際にはもう見つけられていて、親族が報道を拒否しているだけかもしれないが。

 

しかしあの首吊りは、「今でもあの木にぶら下がっているのではないか…」と思ってしまう。

 

それくらい自然に馴染んでいたので、あの光景がトラウマになっている。

 

(終)

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