キャンプの夜に感じた危険な気配
四輪駆動車で、普段は
人の行かないような山奥に、
10人程度で泊まりがけの
キャンプをした時のこと。
その晩はすごい雨が降っていて、
山の斜面から流れる水が、
ちょっとした川のようになるくらい、
ひどい天候だった。
だけど、大きめのタープもあるし、
そういったひどい状況には
何度も遭っている。
だから、
みんな割と慣れた様子で、
数個のランタンを中心に、
深夜も酒を飲んで歓談していたんだ。
その時、数人が、
ビールが切れたので、
俺の後ろに置いてあるクーラーボックスから
何本か取り出してくれと頼まれた。
快諾して、キャンピングチェアに
座ったまま後ろを向いて、
クーラーボックスを開けて、
何本かビールを取り出した。
ちょうど俺の後ろ数メートル先には
俺の車が停車しており、
ふと自分の車に目がいった。
すると、車のシャーシと
地面の隙間から、
こちらに向いてつま先立ちしている
2本の足が覗いており、
「あれ?誰か俺の車の向こうで
立ってるのかな?
まさか立ちションしてるんじゃ
ないだろうな?」
と思って、
誰だろう?と視線を上に
上げようとした。
が、突然本能が、
「絶対に目を上げるな!」
と、ものすごい勢いで
警告を発していた。
普段、霊とは無関係な俺が、
なぜか急に怖くなって、
視線を上げずに
みんなの方向へ向き直って、
ビールを何本も飲んだ。
それからも、
頭の中では「絶対に振り向くな」と
本能が告げていたので、
決して振り向くことはなかった。
なぜなら、
タープ内には全員いる。
それに、他の人間が
入って来れるような場所ではなく、
どう考えてもおかしすぎる。
対面に座ってるヤツは、
何か見えてるのだろうか?
と思いつつも、
対面の人間の位置からは、
真ん中に置いてある
ランタンの光が強くて、
車まで見ることは出来ないようだ。
少し元気がないと言われたが、
少し酔ったとごまかしつつも、
席を離れることが出来なかった。
こうしていくうちに一人、
また一人と席を立ち、
それぞれのテントや車へ
戻っていく。
そして、俺と隣にいる
友人の二人だけになった。
俺の頭の中には、
まだ本能が危険を告げており、
とても振り向ける状態ではない。
ランタンのガソリンも一つ消え、
二つ消え、
徐々に暗くなっていく。
みんなすでに寝静まったようで、
降り続ける雨の音だけが
耳に入ってくる。
友人と内容の無い話をしながら、
まだ席を立たないでくれ、
と心の中で願っていた。
そんな心の内を知ってか、
友人は席を立たずに、
一緒に酒を飲んでくれた。
1時間くらい経って、
本能の起こす警告が止んだ。
今まで心の中で巻き起こっていた、
嫌な感じが急になくなった。
もう安全だと感じた時に
事の顛末を話したところ、
友人も同じ状況にあったとのこと。
しかし俺の車を振り向く
勇気がなかったので、
そのまま友人の車に
泊めてもらうことにした。
結局、
霊を見ることはなかったが、
自分にとっては
凄く怖い体験だった。
(終)