不動産屋に紹介された一軒家
もうかれこれ10年前の話。
まだ自分は9歳だった。
諸事情で祖母と二人暮らしを
していたが、
小学生半ば頃、
母親とも一緒に暮らすことになった。
祖母とは小さな漁師町に
住んでいたけれど、
転校するのは嫌だったが、
母親が住んでいる町に
引っ越す事にした。
母親は団地に住んでいて、
三人で暮らすには手狭ということで、
一軒家を借りることになった。
少しして、
町の不動産屋さんに紹介され、
家族三人で内見に行った。
小学校からも遠くない。
道路にも面しているし、
小さいながらも物置がある。
駐車場もあった。
築20年位に感じた。
まだその家には人が住んでいて、
契約が決まり次第退去し、
引っ越しの手筈だった。
しかし、
玄関に入ると不気味な仏像が
100体以上並べられていた。
「どうぞ自由に見てくださいね・・・」
中から出てきたおばさんの目は、
明らかにおかしく淀んでいた。
仏像からして自分は怯えてしまい、
内見どころではなかった。
『早くこの家から出なきゃいけない』
何故かそう感じていました。
母は2階を見ると言い、
自分も付いて行きましたが、
後悔をしました。
2階は不思議な造りで、
大きな部屋に衝立で
かろうじて仕切って、
部屋らしきものを
形作っていました。
そして何より、
窓が沢山あって南向きなのに、
寒い。
そして暗い。
黒いモヤが部屋中に
綿埃の様にいて、
母にモヤは何なのか
聞こうとした瞬間、
「家から出るまで喋っては
いけない。悪い物だから。
お前に付いて来たがっている」
そう、小声で言われ、
自分はもうパニックでした。
黒いモヤは、
ゆらゆらふわふわ浮いたりし、
何となく私達に近づいている
気がしました。
それに気づいたのか、
母は陽気に喋りまくる不動産屋に、
もう内見は止めて帰る旨を伝え、
1階に向かいました。
玄関で靴を履きながら、
ちらりと居間を見ると、
夥しい数の仏像が所狭しといて・・・
もう駄目だと思いました。
玄関を出て、
不動産屋さんは、しきりに
母に契約を迫っていました。
しかし、
母は断り続けていました。
ちなみに、
付いて来た祖母は、
私達の車の中から
出ては来ませんでした。
そして母は不動産屋さんに
言ったのです。
「あんた、知らないって
思ってるでしょ?
ここで首吊った爺さん、
二人もいるじゃない。
なんて物件紹介してくれてんのよ」
全く意味が分からない私は、
「何が?!何が?!」
と母に詰め寄ると、
母は駐車場を指差し、
「ここで吊ってる。
元はここ物置でしょ?
自殺があったから、
壊して隣に物置を建てた。
そういうことだから、
契約はなかったことにして。
こんな家に居たら、
住んでる人みたいに
おかしくなっちゃうわ」
そう吐き捨てる様に言い、
母に手を引かれ車に乗り、
不動産屋さんを尻目に
車を走らせました。
祖母は、
「なんて家だろうね・・・
土地がよくない。
首吊り自殺した爺さん、
ぶら下がって
あんたたち見下ろしてて、
不気味ったら
ありゃしないわよ」
その言葉に母も返しました。
「爺さん二人だけじゃないよ。
家の中でも少なく見積もっても
二人は死んでるよ。
2階なんて最悪。
***がいっぱいいるのよ。
(難しい言葉で聞き取れなかった)
それなのに不動産屋なんて
普通にしてるの。
見えないって得だね。
この子は引き寄せ易いから、
家帰ったらアレしなきゃね」
そんな会話をしながら
母の団地に着き、
すぐさま私は日本酒が入った
お風呂に入るよう、
命ぜられました。
アレとは、
お清めだったようでした。
その後、祖母により、
何か御祓いのようなものを
された記憶があります。
私の家系は視えるようです。
祓い方なども一通り、
習いました。
その一件後、
知り合いのツテで一軒家を借り、
無事に引っ越せました。
その家にも何体か居たのですが、
母いわく、
「歩き回るばあさんと子供だけだから
可愛いもんだよ」
と言っていました。
ちなみに、
あの仏像だらけの異様な家は、
本当に爺さんが首を吊っていました。
新しく引っ越した家のお隣りさんから
詳しく聞きましたから・・・。
有名な家を紹介されたみたいです。
(終)