助手席に残る匂いと思い出
中古車ばかり乗っていた俺が、7年前に初めて買った新車はボルボ。
納車になるまでワクワクして、「車が来たらカミさんより真っ先に一番に乗せるからね」と、ばあちゃんに何故だか宣言した。
そして納車すると約束通り、家の周りのトンネルなどをグルグルとドライブした。
ばあちゃんは「乗り心地がフワフワしてていいねえ。高級だねえ」なんて言って、凄く喜んでいた。
それから数年、一昨年にばあちゃんが亡くなるまで色々と面倒をみていた。
ばあちゃんは何度も「あれは嬉しかったねえ」と言っていた。
最後にSOSの電話がかかって駆けつけた時も、苦しそうに「いい車だから早く来てくれて驚いたあ」と言っていた。
そして亡くなった。
それからは、嫌なことがあると一人で車に乗り、助手席のもういないばあちゃんに向かって叫ぶように話しかける。
すると、たまに匂いだす。
あの心地よい加齢臭と、昔に住んでいた家のカビ臭い香りが。
気のせいではなくて本当に匂う。
どうせなら声を聞かせて欲しい、ばあちゃん。
(終)
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