ある時期になると皆が出て行く家 1/2

一軒家

 

一年前に住んでいた、

恐ろしい家の話。

 

田舎から上京してきた僕は、

同い年のAとBと共に、

 

会社の借りた一軒家に住んでいました。

 

その家は見た目こそボロですが、

中は意外と綺麗で、

 

それぞれの自室も広々として

それなりに快適でした。

 

ただ困る事と言えば、

 

山の中に建っているために、

周りが背の高い木々に囲まれており、

 

家の中にはあまり日が差さない、

という事くらいです。

 

また、これと言って、

 

心霊現象など起きる事もなく

日々は過ぎていき、

 

この家に住み始めて三ヶ月が経った、

少し蒸し暑い日の事。

 

僕は会社の人間から、

少し嫌な噂を聞きました。

 

それは・・・

 

『この家に入居した人間は、

この時期になるとみんな出て行く』

 

というのです。

 

その理由を聞こうとしたのですが、

その人は押し黙ったまま、

 

「ごめん・・・

あまり喋りたくない・・・

 

っていうか、

思い出したくもない・・・」

 

と言って話してくれません。

 

なんだか凄くモヤモヤした気持ちを

抱えながらその日の仕事を終え、

 

家に帰ってこの事をAとBに伝えたが、

二人共あまり気にしていない様子。

 

AとBいわく、

 

「よくある怪談話みたいなもんだろ?

気にしないでいいんじゃない?

 

それに俺お化けなんて見たことないしぃ~

見えないしぃ~」

 

って感じでした。

 

僕もお化けなんて見た事はなかったので、

 

「まぁ、なんか出たら

他の部屋に二人居るし、

 

なんとかなるっしょ~」

 

って感じで、

軽く考えていたのです。

 

しかし、

僕らは後に思い知るのです。

 

この家の本当の恐怖を・・・

 

そしてこの話を聞いた一週間後、

 

僕らは一人残らずこの家から

出て行く事になるのです・・・

 

あれから2~3日が過ぎた頃、

最初に異変が起きたのはAでした。

 

ある朝、飯を食っていると、

 

僕の部屋のドアが勢いよく開けられ、

Aが汗だくで転がり込んで来ました。

 

いきなりの事で何が起きているのか

分からずオロオロしていると、Aが、

 

「なぁ!俺の背中が・・・

なんか凄く痒いんやけど!

 

俺の背中、

どーかなっとらん?」

 

と言いながら、

背中を見せてきたのですが・・・

 

その背中には所狭しと、

赤いブツブツが出来ていたのです。

 

朝からキモイもん見せるなカスが!

と思いながら、

 

とりあえず病気かも知れないから

病院に行く事を勧めましたが、

 

彼はひたすら拒否します。

 

その理由は、

 

彼はなかなかのイケメンで、

様々な女を食ってきたツワモノ。

 

そんな彼は、

 

「愛する女の体温を遮るゴムなんて

俺には必要ねぇ!」

 

というアホなこだわりの持ち主であり、

そのために今までかかった性病も数知れず。

 

ここら辺の病院は一通り巡っているため、

 

俺が行ったら「また性病か!」みたいな顔で、

先生や看護婦が見てくる。

 

俺にはそれが耐えられないんだ。

 

というものでした。

 

とりあえずその日は、

 

Bが持っていた痒み止めを塗りたくって

仕事に行ったようですが、

 

結局は痒みに耐えられず、

途中で帰ってきていたようでした。

 

そんな原因不明な病を目の前にして

少し嫌な予感を感じつつ、

 

その日も仕事を終え帰宅。

 

「次は俺があの変な病気に

かかるんじゃないか?」

 

と少し恐怖を感じながら、

その日は眠りにつきました。

 

そして布団を鼻まで被り、

 

そろそろ夢と現実の区別が

つかなくなるかなという時に、

 

異変が起こりました。

 

なにやら鼻のあたりが

ムズムズするのです。

 

僕は夏風邪でも引いたかな?と思い、

少し鼻をすすりました。

 

すると・・・「ズボッ」と鼻の中に、

何かが入ってくるのを感じました。

 

一瞬何が起こったか分からず

ボケ~っとしていると、

 

「ガサガサッ」と鼻の中で何かが・・・

 

一瞬で現実に引き戻され、

思い切り鼻から息を「フンッ」と吐き出すと、

 

何かが鼻からプラ~ンと

垂れ下がるのを感じました。

 

急いでそれを引き抜き、

床に叩きつけて部屋の電気を点け、

 

一体何が入ってきたのかを確認すると、

それは少し小さめの百足(ムカデ)でした。

 

あまりの出来事にパニックになりながら、

とりあえずBの部屋へ行くと、

 

彼は熟睡中。

 

構わず彼の部屋の電気を点けた時、

 

僕はさらなる恐怖に、

股間から少し漏らしていました。

 

Bは普段からズボラというか

大雑把というかそんな奴で、

 

風呂も2日に一回くらい。

 

歯磨きなんて一週間やらないことも

あるようなツワモノ。

 

僕が部屋に入った時、

 

彼は仰向けで大口を開けながら

寝ていたのですが、

 

なにやら彼の口元には、

黒い物体がいるのです。

 

「・・・なんだこれ?」

 

と思って近づくと、

 

その黒い物体は「カサカサカサ・・・」

と逃げていきます。

 

それはゴキブリでした。

 

なんと、ゴキブリが彼の歯垢を

食べに来ていたのです。

 

あまりの事に言葉も出ず、

 

僕は部屋の電気を点けたまま、

彼の部屋を後にしました。

 

次の日。

 

僕は昨日起きた事を、

二人に話しました。

 

Aは「うげぇ・・」という顔をしており、

 

Bは「なんで起こさなかったんじゃ!」

とキレながら、

 

珍しく入念に歯磨きをしていました。

 

三人で相談した結果、

 

「とりあえず他に行くところもないし、

虫共をなんとかするしかないやろ」

 

という事になり、

その日は仕事を休み、

 

近くのスーパーでバルサンを

しこたま買い込んで、

 

虫退治をしてやりました。

 

そのお陰か、

 

しばらくの間は虫に悩まされる事もなく、

平和な日々が続いたのですが・・・

 

その平和は3日と持ちませんでした。

 

(続く)ある時期になると皆が出て行く家 2/2

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