兄が連れて来た12歳年上の婚約者 1/3
昨年の春、
兄が結婚したい人がいると言って
女性を連れて来た時、
私たち家族はびっくりしました。
相手はバツイチで4歳の女の子がいて、
兄よりも12歳年上の女性でした。
両親、祖父母とも、
最初は反対をしましたが、
当人同士が好き合っているのなら・・・
ということで、
最終的には円満に話が進み、
結婚に賛成しました。
義姉の前夫は、
呑む・打つ・借金癖・暴力と
最悪な男で、
子供の前で妻に暴力を振るったり、
時には子供を叩いたりもしたそうで、
子供は大人の男性恐怖症です。
子供がいることもあり、
義姉が新婚旅行へは行かなくてもいい
と言っていたのですが、
私の両親が、
今まで散々苦労してきたんだから、
子供は家で預かるから旅行に行って
リフレッシュしておいで、
と旅行を勧めて兄夫婦は10日間、
ヨーロッパへと発ちました。
実家には両親と祖父母と私の
5人の大人が住んでおり、
子供のMちゃんがやって来ました。
Mちゃんは初めは知らない大人に
囲まれて怯えていましたが、
血は繋がっていないとはいえ、
両親、祖父母共に、
Mちゃんのことをとても可愛がり、
すぐに家での暮らしに慣れました。
私のことは「お姉ちゃん」と呼び、
私にも慣れて、
寝る時は私と一緒に寝ていました。
Mちゃんが来て3日目の夜、
Mちゃんの話し声で、
私は夜中の2時過ぎに目が覚めました。
Mちゃんはイスに座って、
ゴニョゴニョと何か喋っていました。
私は寝ぼけているのかと思い、
「Mちゃん、何してるの?
遅いからこっち来て寝なさい」
と声をかけました。
すると、
Mちゃんが私の方を振り返り、
「あ、お姉ちゃん。
今ね、たっちゃんとお話してるの」
と言いました。
「たっちゃって誰?誰もいないよ?
夢でも見たの?」
「夢じゃないよ。たっちゃんだよ。
ここにいるよ」
前夫の暴力などが原因で、
心の中にお友達でも作ったのかな?と思い、
Mちゃんが座っているイスの近くまで行き、
「もう遅いよ。
たっちゃんも、もう眠いんだって。
だからMちゃんも寝ようね」
と言って、
ベッドに連れて行って寝かせました。
翌朝、
母に夜の出来事を話し、
専門のお医者さんに一度行った方が
いいんじゃないの?
と言ったのですが、
少し様子を見てみるからと言われました。
私と父が会社へ行った後、
母が庭で洗濯物を干していた時、
Mちゃんは居間で子供番組を
見ていたそうですが、
居間からMちゃんの泣き声が聞こえ、
母は慌てて縁側から居間に入ったそうです。
Mちゃんは耳を両手で押さえながら
ワーワー泣いていたので、
母が「どうしたの?」と訊くと、
Mちゃんは母に泣いて抱きつきながら、
「たっちゃんが髪の毛をひっぱって
いじめてくるの。
怖いお友達がいっぱいいて、
みんなでMのことをいじめるの」
と言って、
泣きながら震えていたそうです。
母親がいなくて寂しいんじゃないか
ということで、
その日、祖父母が町内会の行事で
隣町の健康センターに行くから、
Mちゃんも連れて行きました。
孫を連れて来ている老夫婦もいて、
健康センターでMちゃんは、
同じくらいの歳の子供達と
楽しく遊んでいたそうです。
兄夫婦が新婚旅行から
帰って来るまでの間、
Mちゃんは私たちには見えない
「たっちゃん」とやらと、
昼夜問わず話をしていました。
時には笑い、
時には怒り、
時には泣いて・・・
私たちは母親がいないのと、
前の生活のせいで、
精神的にバランスが崩れているのだろう、
くらいに思っていたのです。
兄夫婦が戻って来て、
実家へ挨拶に来ました。
義姉は、
とてもスッキリとした顔をしていました。
母が義姉にそっとMちゃんのことを話し、
一度、専門家の診察を受けるようにと
促しました。
その年のクリスマス、
兄夫婦の家でクリスマスパーティーをするからと、
招待され家族総出で出かけました。
その夜は兄夫婦の家に、
みんなで泊まりました。
兄夫婦とMちゃんは2階の寝室。
祖父母は1階の和室。
私の両親は2階のMちゃんの部屋。
私は1階の居間のソファーベッドで寝ました。
夜中、台所でガチャガチャとする
陶器の音で目が覚めました。
居間と台所は上部が磨りガラスの
引き戸で仕切ってあり、
明かりが点いていました。
私は義姉が台所にいると思い、
また眠りにつこうとしました。
その時、
パタパタと台所を走り回る足音が
聞こえました。
その足音は子供の足音でした。
Mちゃんかな?と思ったのですが、
寒いし起き上がるのも面倒なので、
そのまま横になっていたのですが、
台所の音が次第に大きくなっていることに
気づきました。
お皿やコップをガチャガチャしている音や、
走り回っているような子供の足音。
気がつくと、
Mちゃんの足音だとばかり思っていた足音が、
複数であることが分かりました。
しかも、大人の足音ではなく、
みんな子供の足音なのです。
この時、私はMちゃんが言っていた、
「たっちゃん」の存在を思い出しました。
その時、
居間と祖父母が寝ている隣の和室を
仕切っている襖が開きました。
祖母でした。
「なんだか騒がしいけど何?」
私は自分の唇に人差し指を当て、
シーと合図をして祖母に手招きをしました。
祖母が私の隣で横になりました。
私は祖母に耳打ちで、
「複数の子供の足音が聞こえる。
何か変だよ」
と言いました。