霊が見える友人とその守り神
もう5~6年くらい前の話になる。
俺の昔の友人に、いわゆる”見える人”がいたのだが、その友人いわく、いつも守り神みたいなものを連れているらしかった。
だから、見えてはいけないものが見えてしまっても、取り憑かれたり危害を加えられたりすることはなかったらしい。
その守り神、普段俺には見えないし、声も気配も感じなかったのだが、「どんな感じなの?」と聞くと、「着物姿の女の人」と本人は言っていた。
忘れてしまったが、○○○様というような名前もあったと思う。
友人の家に泊まった夜に
当時の俺はそういうオカルトな話が大好きだったから、別段気持ち悪いとかこいつ頭おかしいんじゃないかとかは思わず、友人から色々な心霊話なんかを聞かせてもらっていた。
そんなある日、友人の家で遅くまで遊んでいた時、そのまま家に泊めてもらうことになった。
遊んでいる時は1階の居間だったけれど、寝る時は2階にある友人の部屋に移動。
部屋に入ると、中は異様にガランとしていた。
5畳半くらいの広さに、勉強机とその上にデスクトップPCがあるだけ。
他には何にも無い。
ただ、部屋の隅には神棚が置いてあった。
お酒と塩、それに炭の欠片のようなものが備えてある。
「何これ?」と聞くと、「あぁそれ、○○○様の家みたいなもんだよ」と友人。
例の守り神の住家らしい。
なんとなく凄いものを見た気分になった俺は、その神棚に興味津々。
神棚の知識なんてさっぱりだが、それは結構立派なもので、安物には見えなかった。
正面の観音開きになっている部分は閉じていたので、「開けてもいいか?」と聞くと、「断固NG」と言われた。
仕方なく諦めて、少しダベった後に眠りについたのだが、その夜に妙な音が聞こえて目を覚ました。
「がらん、がらん」
神社の鈴の音のようだった。
最初は外から聞こえたのかと思ったが、それにしては結構な大音量で聞こえたもんだから、何だろうと思って起き上がろうとした。
・・・が、体が動かない。
(あれ?これ、金縛り?)
金縛りになったのなんて生まれて初めてだ。
隣で寝ている友人に助けを求めようとしたが、指一本動かせない。
一人で必死にもがいていると、今度は「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」と、ごめんなさいを繰り返す男の声が聞こえてきた。
幸か不幸か、目だけは動いたので思い切って目を開くと、俺の顔を覗き込むようにして頭の側に誰かが立っていた。
黒い着物姿の、たぶん10歳くらいの女の子。
ただ、髪は長いストレートの金髪。
真っ暗な部屋の中で、その女の子の髪と目が光っているかのようにはっきりと見えた。
その時は何故か、怖いとは全然思わなかった。
むしろ金縛りと謎の声で感じていた恐怖が、その姿を見て吹き飛んだ感じだった。
(これはきっと例の守り神だろう。友人も黒い着物の女の人と言ってたし)
俺はてっきり着物姿のおばあちゃんみたいなのかと思っていたので、「なんだ、可愛いじゃないか」と思った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
さっきの男の声は、まだどこからか聞こえてくる。
すると、女の子が何かを俺の上に翳(かざ)した。
紐で結ばれたソフトボールくらいの大きさの鈴だった。
それを軽く振ると、「がらん、がらん」と、最初に聞こえた音がした。
何しているんだろう?と思いながら意識がまどろんでいき、気が付けば朝になっていた。
友人に夜にあったことを話すと、「ああ、やっぱりね」と納得した風。
友人が言うには、「お前、なんか良くないものが憑いてたんだよ。だから○○○様が今日は泊めていってやれって。厄除けしてもらったんだろ」という事らしかった。
そして、「ごめんなさい」という声は俺が発していたものらしく、俺に憑いていた人の懺悔だったのだそうな。
俺はそれまでオカルト話が大好きだったけれど、本心から信じていなかった。
幽霊とか神様とか、あくまで空想の産物だと考えていたけれど、この出来事があってから少し見方が変わった。
何というか、あるところにはあるもんだなぁ・・・と。
俺の方が引越して以来、その友人とは会っていないが、あいつとあの守り神は今でも元気にしているだろうか、とふと思う。
(終)