蔵にしまわれないお宝
亡くなったウチのばあちゃんに昔聞いた話。
ばあちゃんは子供の頃、とても大きな家に住んでいたらしく、大きな蔵も二つほどあったそうな。
一つの蔵にはガラクタを。
もう一つの蔵にはお宝を。
ばあちゃんの家ではそうしていた。
ところが、なぜかその蔵に『絶対にしまわれない』お宝があったという。
呪われたお宝?!
ひとつは甲冑。
実際に戦国時代に使われたとかいう、それは立派なものだった。
座している格好で置いてあった。
そしてもうひとつが、今の炊飯器ぐらいの大きさの木箱。
鉄の縁取りがしてあり、赤茶に錆びた鎖でがんじがらめの状態。
南京錠のような鍵も二つ付いていたとの事。
それら二つのお宝は、とても怖かったというばあちゃんの祖父の部屋に常に並べて置いてあったそうで、ばあちゃんは両親や祖父母から「絶対に触るな!」とキツク言われていた。
そもそも、その祖父の部屋が母屋ではなく離れにあり、常に立ち入り禁止のような感じだった。
ある日、ばあちゃんが弟と庭で遊んでいた時、放った鞠が離れの屋根の上に乗っかってしまったそうな。
鞠が取れなくて困り、離れの中にいた祖父に声をかけたら、突いて落とす棒か何かを探しに行ってくれた。
祖父を待ちながらウロウロしていたら、いつの間にか弟がいない。
探したところ、離れの祖父の部屋の中で見つけたそうだ。
ところが、その弟の様子がおかしい。
鎖でがんじがらめの木箱を抱えて、しきりに何かフガフガしている。
慌てて駆け寄ると、薄く白目をむきながら鎖に噛み付いて、フガフガ言いながらそれを噛み千切ろうとしていた。
弟の襟元も木箱も畳も、よだれでビショビショに。
ばあちゃんは必死に弟を正気に戻そうと、ホッペタを引っ叩いたり体を揺さぶったりしたのだが、弟は全く意に介さず鎖を噛み続ける。
なによりばあちゃんがビックリしたのは、弟が抱えている木箱。
中から声が聞こえる。
「あけてください」
「あけて、あけてよう」
悲鳴を上げると、ちょうど祖父が走って戻ってきた。
「なにしてる!」と一喝するや否や、弟から箱をふんだくり、甲冑の隣へドスンと置いた。
そして、弟の襟を掴んで水場へ引っ張っていくと、桶で何杯も水を被せた。
続いて、ばあちゃんも水を被せられた。
弟はキョトンとしており、自分が何をしていたのか分からない様子で、祖父に「あの木箱は何なの?」と聞いても、「知るな」と言われてなしのつぶてだった。
結局、その謎を知ることがないまま、ばあちゃんは家を出て駆け落ちしたそうだ。
ちなみにその実家のある場所は、長野県の伊那市だという。
(終)