はっきりと見えてしまうのも困りものだな
これは、“藁人形を使った呪い”にまつわる話。
私は、あるお寺で僧侶をしている。
うちは大きなお寺で敷地の中にお堂がいくつもあり、毎朝早くに全てのお堂を回ってお勤めをする。
一堂一堂がそれなりに離れており、限られた時間のうちに全てを回りきらないといけないので結構忙しい。
おまけに、毎回一人一人交代で行うので、全てを回りきるのに1時間ほどかかる。
お堂によってはボロボロだったり薄暗かったりと、なかなか心細い。
その日も薄暗い中を一人で仕事をしていたのだが、最後の最も小さなお堂に続く回廊から、建物の陰に隠れるように一本の木が見える。
普段は気にしないのだが、なぜかそこに目が行った。
回廊を移動しながら眺めていると、一人の女性がぶつぶつ言いながら木に抱きついている。
なかなか人が入って来るような場所でもないが、参拝者も多いお寺なこともあり、変わった人もいるもんだなと思いながらも仕事があるので気にせず次のお堂へ向かった。
最後のお堂も10分ほどで切り上げ、「よし、今日は30分ほど寝れるぞ」と考えながら終えた。
たった10分ほどで、先ほどの女性はいなくなっていた。
そんなことがあったのも忘れ1ヶ月ほど経った頃、職場の先輩が「お前らは知らないよな」と、ある話をしてくれた。
昔、うちの敷地で呪いが行われたことがあったらしく、「藁人形って知ってるか?」とニヤニヤしながら聞いてきた。
藁人形とは、『人型にした藁に、呪いたい相手の体の一部や写真を入れて名前を書き、呪いをかける』というものだ。
この時、注意しなければならないことがある。
必ず丑の刻に行うこと(鬼門の開く時間で霊が多くなる)、人に姿を見られてはならないこと(呪いが自分に返る)、使う釘は五寸釘を使うこと(これには意味があるが省略)だと先輩が教えてくれた。
なんでも昔、お寺の木に刺さっていたのを先輩達が発見し、話し合いをした末に“呪い返しの儀式をした”らしい。
呪いを返された相手は、生きていると呪いが返り苦しみ、死んでいる場合は地縛霊としてその場に縛り付けられる、とのこと。
ああ…そういうことかと、話を聞いて私はある朝のことを思い出し、妙に合点がいった。
私は、「多分、裏の木ですよね?」と聞いてみた。
先輩は一瞬目を丸くしてキョトンとした後に、「あれ?お前その当時いたんだっけ?まあ、気をつけろよ」とだけ言って、タバコを吸いに行ってしまった。
それからは特に変わったことはないが、はっきりと見えてしまうのも困りものだなと思った。
(終)