呪う女 6/18

慎はズボンのポケットから

インスタントカメラを取り出し、

右手に握ると、

 

俺の期待を裏切り「よし」と小さく呟き、

山へ入るとすぐさま走り出した。

 

俺は、その後ろ姿に引っ張られるように

走り出した。

 

慎は振り返らずに走り続ける。

俺は必死に慎を追った。

 

一人になるのが恐かったから

必死で追った。

 

今思えば慎も恐かったのだろう。

 

恐いからこそ、周りを見ずに

走ったのだろう。

 

あの場所が徐々に近づいてくる。

 

思い出したくもないのに、

あの夜の出来事を鮮明に思い出し、

心に恐怖が広がりだした。

 

恐怖で足がすくみだした時、

あの場所に着いた。

 

『中年女が釘を打っていた場所』

『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』

『中年女に引きずり倒された場所』

『中年女と出会ってしまった場所』

 

俺は急に誰かに見られているような気がして、

周りを見渡した。

 

いや、誰かにでは無い。

中年女に見られているような気がした。

 

山特有の静寂と、自分自身の心に広がった

恐怖がシンクロし、足が震えだす。

 

立ち止まる俺を気にかける様子無く、

慎はあの木に近づきだした。

 

何かに気付き、

慎はしゃがみ込んだ。

 

「ハッピー・・・」

 

その言葉に俺は足の震えを忘れ、

慎の元に歩み寄った。

 

ハッピーは既に、土の一部に

なりつつあった。

 

頭蓋骨をあらわにし、その中心に

少し錆びた釘が刺さったままだった。

 

俺は釘を抜いてやろうとすると、

慎が「待って!」と言い、写真を一枚撮った。

 

慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず

俺は再び釘を抜こうとした。

 

頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、

頭蓋骨の中から見たことの無い、

多数の虫がザザッと一斉に出てきた。

 

「うわっ!」

 

俺は慌てて手を引っ込め、

立ち上がった。

 

ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、

ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。

 

それどころか、吐き気が襲ってきてえずいた。

慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。

 

俺はあの夜ハッピーを見殺しにし、

またハッピーを見殺しにした。

 

俺は最高に弱く、最低な人間だ。

 

慎はカメラを再び構え、

あの木を撮ろうとしていた。

 

「ん?!おい!ちょっと来てーや!」

 

何かを発見し、俺を呼ぶ慎。

俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。

 

慎が、

「これ、この前無かったよな?」

と何かを指差す。

 

その先に視線をやると、

無数に釘の刺さった写真が・・・

 

ん?たしか前もあったはずじゃ・・・

いや!写真が違う!

 

厳密に言うと、この前見た4~5歳ぐらいの

女の子の写真は、その横にある。

 

つまり、写真が増えている!

 

写真の状態からして、ここ2~3日ぐらいに

打ち込まれているであろう。

 

この前に見た写真は、既に女の子か

どうかもわからないぐらいに、

雨風で表面がボロボロになっている。

 

新しい写真も、4~5歳ぐらいの

女の子のようだ。

 

この時は慎に言わなかったが、俺は一瞬、

新しい写真が俺だったらどうしよう!!

とドキドキしていた。

 

慎はカメラに、その打ち込まれた

写真を撮った。

 

そして、

「後は秘密基地の彫り込みを撮ろう」

と言い、また走り出した。

 

俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、

一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。

 

秘密基地に近いて来ると

俺は違和感を感じ、

「慎!」と呼び止めた。

 

違和感。

 

いつもなら、秘密基地の屋根が

見える位置にいるはずなのだが、

屋根が見えない。

 

慎もすぐに気付いたようだ。

 

このとき、脳裏に『中年女』がよぎった。

胸騒ぎがする。鼓動が激しくなる。

 

慎が「裏道から行こう」と言った。

俺は無言で頷いた。

 

裏道とは、獣道を通って秘密基地に行く

従来のルートとは別に、

 

茂みの中をくぐりながら、秘密基地の裏側に

到達するルートの事である。

 

この道は万が一、秘密基地に

敵が襲って来た時の為に造っておいた道。

 

もちろん、遊びで造っていたのだが、

まさかこんな形で役に立つとは・・・

 

この道なら万が一、基地に『中年女』がいても、

見つかる可能性は極めて低い。

 

俺と慎は四つん這いになり、茂みの中の

トンネルを少しずつ進んだ。

 

そして秘密基地の裏側約5メートル程の

位置にさしかかった時、基地の異変の

理由が分かった。

 

バラバラに壊されている。

 

俺達が造り上げた秘密基地は、

ただの材木になっていた。

 

しばらく様子を伺ったが、

中年女の気配もないので

俺達は茂みから抜け出し、

秘密基地の跡地に到達した。

 

俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て、

少し泣きそうになった。

 

秘密基地は言わば、俺達三人と2匹の、

もう一つの家。

 

バラバラになった材木の片隅に、

大きな石が落ちていた。

 

恐らく誰かが、これをぶつけて

壊したのだろう。

 

誰かが?・・

いや、多分『中年女』が・・・

 

慎が無言で写真を撮りだした。

 

そして数枚の材木をめくり、

『淳呪殺』と彫られた板を表にし、

写真を撮った。

 

その時、わずかな板の隙間から蝿が飛び出し、

その隙間からタッチの遺体が見えた。

 

ハッピーとタッチ。

 

秘密基地よりもかけがえのない2匹を、

俺達は失った事を痛感した。

 

(続く)呪う女 7/18へ

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