リアル 6/11

見かねた両親は、

強引に怯える俺を車に押し込み、

何処かへ向かった。

 

父が何度も「心配するな」「大丈夫だ」

と声をかけた。

 

車の後部座席で、母は俺の肩を抱き

頭を撫でていた。

 

母に頭を撫でられるなんて、

何年振りだったろう。 

 

時間の感覚も無く(当時の俺にはだが)

車で移動しながら夜を迎えた。

 

二十歳も過ぎて恥ずかしい話だが、

母に寄り添われ安心したのか、

久方ぶりに深い眠りに落ちた。

 

目が覚めるとすでに陽は登っていて、

久しぶりに眠れてすっきりした。

 

実際には丸一日半、眠っていたらしい。

 

多分、あんなに長く眠るなんて、

もうないだろうな。

 

外を見ると、車は見慣れない

景色の中を進んでいた。

 

少しずつ、見覚えのある景色が

目に入り始めた。

 

道路の中央に電車が走っている。

 

車は長崎に着いていた。

これには俺も流石に驚いた。

 

怯え続ける俺を気遣い、飛行機や新幹線は避け

車での移動にしてくれたらしい。

 

途中で休憩は何度も入れたらしいが、

それでもろくに眠らず車を走らせ続けた父と、

俺が怖がらないように、

ずっと寄り添ってくれた母への恩は、

一生かけても返しきれそうもない。

 

祖父母の住む所は、

長崎の柳川という。

 

柳川に着くと、坂道の下に車を停め、

両親が祖父母を呼びに行った。

(祖父母の家は、坂道から

脇に入った石段を登った先にある)

 

その間、俺は車の中に

一人きりの状態になった。

 

両親が二人で出て行ったのは、

足腰の悪い祖母や、

S先生の家に持っていく荷物を

運ぶのを手伝うためだったのだが、

自分で「大丈夫、行って来て」

なんて言ったのは、

本当に舐めてた証拠だと思う。

 

久しぶりに眠れた事や、

今いる場所が東京や埼玉と

随分離れた長崎だった事が、

気を弛めたのかもしれない。

 

車の後部座席に足を丸めて座り、

外をぼーっと眺めていると、

急に首に痛みが走った。

 

今までの痛みと比較にならないほど、

言い過ぎかも知れないが激痛が走った。

 

首に手をやると、滑りがあった。

・・・血が出てた。

 

指先に付いた血が、

否応なしに俺を現実に引き戻した。

 

この時、怖いとか、アイツが近くにいるかも

って考える前に、「またかよ・・・」って、

投げやりな気持ちが先にきたな。

 

もう、何か嫌になって泣けてきた。

 

わかってもらえれば嬉しいけど、

嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのって、

もうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。

 

気持ちの整理がつきはじめると、

嫌な事が起きるってのは辛いよね。

 

この時は、少し気が弛んでいたから尚更で、

「どーしろっつーんだよ!!」とか、

「いい加減にしてくれよ」とか、

独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。

 

車に、両親が祖父母を連れて

戻って来たんだけど、

すぐにパニックになった。

 

何しろ問題の俺が、首から血を流しながら、

後部座席で項垂れて泣いてるからね。

 

何も無いわけがないよな。

 

「どうした?」とか、

「何とか言え!」とか、

「もぅやだー」とか、

「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか、

「どげんしたと!?」とか、

「あなたどうしよう」とか。

 

この時は思わず、

「てめぇらぅるっせーんだよ!!」

って怒鳴ってしまった。

 

こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、

てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に・・・黙ってろよ!

とか思ってたな。

 

勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、

騙されそうになるわ・・・

こんな俺みたいな駄目な奴のために、

走り回ってくれてる人達なのに・・・。

 

今考えると、本当に恥ずかしい。

 

で、人生で一度きりなんだけどさ、

親父がいきなり俺の左頬に、

平手打ちをしてきた。

 

もの凄い痛かったね。

 

親父、滅茶苦茶厳しくて、

何度も口喧嘩はしたけど、

多分、生まれてから一回も

打たれた事無かったからな。

(父のポリシーで、子供は絶対殴らない

ってのは昔から耳タコだったしね)

 

で、一言だけ、

「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って、

静かだけど厳しい口調で言ったんだ。

 

それで、何故か落ち着いた。

 

ってかびっくりし過ぎて、それまでの絶望感が

どっかに行ってしまったよ。

 

冷静さを取り戻して皆に謝ったら、

急に腹が据わってきた気がした。

 

走り始めた車の中で、励ましてくれる

祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。

 

自分で思ってるよか、全然

心が弱かったんだな、俺は。

 

(続く)リアル 7/11へ

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