リアル 8/11

俺はS先生の目を見ていたし、

S先生は俺の目を見ていた。

 

ただ優しかったS先生の顔は、

無表情になっているように見えた・・・。

 

左側の視界には、

何かいるってのはわかってた。

 

チラチラと見えちゃうからね。

 

よせばいいのに、

左を向いてしまった。

 

首から、生暖かい血が

流れてるのを感じながら。

 

アイツが立ってた。

 

体をくの字に曲げて、

俺の顔を覗き込んでいた。

 

くどいけど・・・わけがわからなかった。

起きてることを認められなかった。

 

ここは寺なのに、

目の前にはS先生がいるのに・・・

何で、なんで、何で・・・。

 

一週間前に見たまんまだった。

アイツの顔が目の前にあった。

 

フクロウのように、小刻みに顔を動かしながら、

俺を不思議そうに覗き込んでいた。

 

「ドォシッテ?」

「ドォシッテ?」

「ドォシッテ?」

「ドォシッテ?」

 

オウムのような声で、

ずっと質問され続けた。

 

きっと、林も同じように、

この声を聞いていたんだろう。

 

俺と同じ言葉を囁かれていたのかは、

わからないが・・・。

 

俺は息する事を忘れてしまって、

目と口を大きく開いたままだった。

 

いや、息が上手く出来なかった

って方が正しいな。

 

たまに「コヒュッ」って感じで、

息を吸い込む事に失敗してた気がするし。

 

そうこうしているうちに、

アイツが手を動かして、

顔に貼り付けてあるお札みたいなのを、

ゆっくりめくり始めたんだ。

 

見ちゃ駄目だ!

絶対駄目だってわかってるし

逃げたかったんだけど、

動けないんだよ!!

 

もう、顎の辺りが見えてしまいそうな

くらいまで来ていた。

 

心の中では、

「ヤメロ!それ以上めくんな!」

って叫んでるのに、

口からは「ァ・・・ァカハッ・・・」みたいな、

情けない息しか出ないんだ。

 

もうやばい!ヤバい!ヤバい!

ってところで、「パンッ!!」って。

 

例えとか誇張でもなく、跳び上がった。

心臓が破裂するかと思った。

 

「パンッ!!」

 

その音で俺は跳び上がった。

 

正座してたから、体が倒れそうになりながら

後に振り向いて、すぐ走り出した。

 

何か考えてたわけじゃなく、

体が勝手に動いたんだよね。

 

でも慣れない正座のせいで、

足が痺れてまともに走れないのよ。

 

痺れて足がもつれた事と、

あんまりにも前を見てないせいで、

頭から壁に突っ込んだが、

ちっとも痛くなかった。

 

額から血がだらだら出てたのに、

それだけテンパって

周りが見えてなかったって事だな。

 

血が目に入って何も見えない。

手をブン回して出口を探した。

 

けど、的外れの方ばっかり

探してたみたい。

 

「まだいけません!」

 

いきなりS先生が大きい声を出した。

 

障子の向こうにいる

両親や祖父母に言ったのか、

俺に言ったのか、

わからなかった。

 

わからなかったが、その声は

俺の動きを止めるには十分だった。

 

ビクってなってその場で硬直。

 

またもや頭の中では、物凄い回転で

事態を把握しようとしていた。

 

っつーか把握なんて出来るはずもなく、

S先生の言うことに従っただけなんだけどね。

 

俺の動きが止まり、

仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが

止まった事を確認するかのように、

少しの間を置いてから、

S先生が話し始めた。

 

S先生「Tちゃんごめんなさいね。

怖かったわね。もう大丈夫だから

こっちに戻ってらっしゃい。

Iさん、大丈夫ですから、

もう少し待ってて下さいね」

 

障子(襖だったかも)の向こうから、

しきりに何か言ってのは聞こえてたけど、

覚えてない。

 

血を拭いながらS先生の前に戻ると、

手拭いを貸してくれた。

 

お香なのかしんないけど、

いい匂いがしたな。

 

ここに来てやっと、あの音はS先生が

手を叩いた音だって気付いた。

(質問出来る余裕は無かったけど)

 

「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」

 

「見えました・・・。

どーして?って繰り返してました」

 

この時にはもう、S先生の顔は

いつもの優しい顔になってたんだ。

 

俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて

答える事だけに集中した。

 

まぁ、考えるのを諦めたんだけどね。

 

「そうね。どうして?って聞いてたわね。

何だと思った?」

 

さっぱりわからなかった。

考えようなんて思わなかったしね。

 

「??・・・いや・・・、ぅぅん?

・・・わかりません」

 

「Tちゃんは、さっきの怖い?」

 

「怖い・・・です」

 

「何が怖いの?」

 

「いや・・・、だって普通じゃないし。

幽霊だし・・・」

 

ここらへんで、俺の脳は思考能力の

限界を越えてたな。

 

S先生が何を言いたいのか、

さっぱりだった。

 

「でも、何もされてないわよねぇ?」

 

「いや・・・首から血が出たし、それに

何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。

明らかに普通じゃないし・・・」

 

「そうよねぇ。でも、

それ以外は無いわよねぇ」

 

「・・・」

 

「難しいわねぇ」

 

「あの、よくわからなくて・・・

すいません」

 

「いいのよ」

 

S先生は、俺にもわかるように話してくれた。

諭すっていった方がいいかもしれない。

 

(続く)リアル 9/11へ

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