隠されていた婆ちゃんの遺品
幽霊よりも生きている人間の方が怖いと思った話。
婆ちゃんが病院で死んだ。
一人暮らしだったアパートに遺体が搬送されてくるというので、近所に住んでいた俺が待っていた。
俺は婆ちゃんの孫だ。
すると、叔父や叔母らが次々とやってきて、互いに口もきかずにタンスやら押入れを物色している。
婆ちゃんを迎える準備でもしているのかな?と思いながら、無慈悲な俺はぼけーっと待っていた。
婆ちゃんが教えてくれた秘密
やがて、婆ちゃんの遺体が到着した。
葬儀屋の人と俺とで婆ちゃんを部屋まで運んでいるのにも関わらず、叔父や叔母らは手伝わない。
結局は俺が布団を敷き、担架から婆ちゃんを降ろし、葬儀屋と人と一緒にドライアイスを詰めた。
その後も、通夜と告別式の説明は俺が聞くことになり、そのまま喪主も俺がすることに。
叔父や叔母らの子供達も合流して、まるで家宅捜索のように室内を物色し続けていた。
その異様な光景に、一部の強欲ではない親戚らは唖然としていた。
そして物色組は、「嫁いだ娘の家に遊びに行く予定がある」やら「同窓会がある」やら「友人と旅行に行く」と言っては、通夜で出すはずの寿司だけを食べて帰っていった。
式には出席しなかった。
その中には婆ちゃんの実の娘もいたのに・・・。
物色組は、婆ちゃんの着物やアクセサリー類を持っていったようだった。
実は、俺と俺の母は一族から勘当されていて、墓に入ることも姓を名乗ることも許されていないのだが、俺が婆ちゃんの葬式をあげるような形になって良かったと思う。
いい経験にもなった。
婆ちゃんの葬式が終わった後、アパートの引き払いに取りかかった。
捨てるもの、売るもの、誰かが持っていくものを整理した。
買い取り業者が来て大物を運び出す前日、俺は婆ちゃんの匂いがするその部屋で酒を飲んで寝ていた。
しかし、夜中に首筋に激痛を感じて飛び起きた。
電気をつけると、小さい蛾のような虫がハタハタと飛んでいたが、それに刺されたのかどうかは分からない。
首筋は赤富士のように小さく腫れて痛かった。
そして激痛で飛び起きた際に、業者へ売るはずだった茶箪笥の戸を蹴破ってしまった。
確か買い取り金額は500円くらいだったが、粗大ゴミとして引き取ってもらうには4000円払わなければならない。
なので、茶箪笥を分解して燃えるゴミとして捨てるハメになってしまった。
俺は金槌とノコギリとバールのようなもので茶箪笥を壊し始めた。
すると、茶箪笥の内側に何かが貼り付けてあった。
貼ってあったのはガムテープだが、その下に何かを貼り付けているように見えた。
それも沢山の何か。
ガムテープを一枚剥がしてみると、金属の薄っぺらな板が一緒に貼り付いていた。
ガムテープの糊を取って板を良く見てみると、なんとそれは『金』だった。
茶箪笥には、薄っぺらい金の板がいくつもガムテープで貼り付けられていた。
全ての金を剥がして重さを量ると、およそ1.5kgあった。(現時点の相場は金1g=4719円なので、金1.5kg=約708万円相当になる)
俺は金を全部ポケットに入れて、ずり落ちるズボンを上げながらこっそり家に持ち帰った。
もしあの日の夜、首筋の激痛がなければ茶箪笥を壊すこともなかったので、金の存在を知らずに業者に売ってしまうところだった。
俺は今でも『婆ちゃんが金の存在を教えてくれた』と勝手に信じ、形見として大事にしまっている。
(終)