寝る前にバイクで走りたくなったのだが

高校生の時に

体験した話です。

 

「おつかれさまでした~」

 

店長「おつかれさんっ!

明日もよろしくねぇ~」

 

「了解です」

 

俺はその日、

 

いつも通りにバイトをこなし、

帰路についた。

 

「ただいま~」

 

「おかえり~」

 

ここまでは、

いつもと何ら変わらない。

 

夕飯を食べ、

風呂に入り、

 

後は寝るだけ・・・

のはずだった。

 

何故かこの日は、

 

無性にバイクで出掛けたい

気持ちに駆り立てられた。

 

普段なら、

 

バイトが終わった後は

疲れてしまって、

 

そんな気は起きないのに・・・。

 

「ちょっとバイクで

そこらへん走ってくるわ」

 

「今から!?

もう夜遅いよ?」

 

「大丈夫~。

事故りゃしないよ~」

 

「まぁ~気を付けて

行って来なよ」

 

「分かってるよ。

行ってくるわ~」

 

そして俺は走り出した。

 

この後に何が起こるかも

知らずに・・・。

 

「久々にちょっと遠出してみっか」

 

普段は、

走ると言っても、

 

近所を20分ぐらい

走るだけなのだが、

 

この日はヤビツ峠へ

行く事にした。

 

寒い中を走ること40分、

目的地入り口に到着。

 

「頂上までノンストップじゃ!」

 

意気揚々と進入。

 

「相変わらずこの峠は暗いな。

誰か外灯作れよ~」

 

独り言を呟きながら

走っていた。

 

中腹地点に差し掛かった辺りから、

異様な空気が漂い始めた・・・。

 

「何か変な空気だし、

引き返そうかな・・・」

 

そんな事を考えながら

走っていた。

 

そうこうしている内に、

あるトンネルに差し掛かった。

 

このトンネル、

 

全長10メートル弱の

短いトンネルなのだが、

 

雰囲気が周りと全然違い、

異様なオーラを放っている。

 

「やっぱり引き返そう」

 

・・・え?

 

ブレーキが効かない!

 

「何で!?

何で効かないんだよ!」

 

パニックに陥りながらも、

 

何とか事故を起こさないように、

必死に運転した。

 

そして止まった。

 

「止まった・・・。

良かった~」

 

・・・?

 

止まったのはトンネルの中。

 

状況の把握が

出来なかった。

 

しかし、把握している

余裕は無かった。

 

何かが近づいて来ている。

 

前方から凄い数の気配が・・・。

 

このままここにいたら危険、

そう感じ取った。

 

エンジンをかけようとしたが、

一向にかからない。

 

気配はその間にも、

段々と近づいて来る。

 

「かかれよ!」

 

何度も何度も、

かけようとしているのだが、

 

かからない。

 

「かかった!」

 

次の瞬間、

 

ガシッ!

 

「うわぁぁっ!」

 

肩を凄い力で掴まれた・・・。

 

泣きながら逃げた。

 

無我夢中で走り続けた。

 

走っている間も、

ずっと掴まれていた。

 

フッと、

 

掴まれていた肩が

楽になり、

 

掴まれている感覚も

無くなった。

 

『ドウシテ・・・』

 

!?

 

『ドウシテ・・・ドウシテ・・・ドウシテ・・・

ドウシテ・・・ドウシテ・・・ドウシテ・・・』

 

頭の中に響いてくる声・・・。

 

男の声か女の声かも、

区別がつかない声。

 

半狂乱になりながら、

なんとか峠から出る事が出来た。

 

声は聞こえなくなり、

 

俺は落ち着きを

取り戻し始めていた。

 

ガシッ!

 

・・・ぇ

 

『アキラメナイ・・・』

 

「あぁぁぁぁぁっ!」

 

逃げた・・・。

 

必死に逃げた。

 

そこからの記憶は

飛んでいて、

 

何も覚えていない。

 

親が言うには、

家に帰って来た時、

 

俺は顔面蒼白で、

虚ろな目をしていたらしい・・・。

 

(終)

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