あるトラックを探し続ける家族の霊
これは、3年ほど前に体験した話です。
私は長距離トラックドライバーの仕事をしています。
主に関西から関東や東北へトラックを走らせています。
ある時、栃木まで荷物を運び、帰りは埼玉のとある工場から関西へ運ぶ仕事がありました。
いつも埼玉の工場で積み込みが終わるのが20時頃で、そこから関越から上信越、中央道から名神のルートを通っていました。
その日は金曜日だったと思うのですが、いつものように埼玉で積み込みをし、その荷物は月曜日に降ろす荷物だったので、ゆっくりと帰っていました。
途中のパーキングで同僚と会い、そこから2台連なって走っていました。
上信越はいつもながら車が少ないのですが、その日は特に少なく、私たち以外はほとんど走っている車はありません。
そして、“上信越にある長いトンネル”に差し掛かりました。
このトンネルは結構長いので、いつも通る時に少し息苦しさを感じます。
ようやくトンネルの出口が近づいた時、前を走っていた同僚が急に、障害物を交わすような動きをして車線変更をしました。
車間を開けていたとはいえ、私も慌てて車線変更をしました。
しかし障害物など無く、故障車などもありませんでした。
その直後、同僚から携帯に電話がかかってきました。
同僚「おい今、人が3人ぐらい歩いていなかったか?」
私「いや、何もなかったよ?疲れてんじゃないの?」
同僚「いや、確かに歩いてるように見えたんだけど。見間違いかなぁ」
とりあえずパーキングに入ってあれこれ話をしましたが、同僚のトラックに何かぶつかった跡も無く、たぶん疲れのせいでトンネルの光の具合で人がいるように見えたんじゃないの?ということになり、実際二人とも疲れていたのでそのパーキングで仮眠することに。
同僚の車は寝るスペースが運転席の後ろにある普通のタイプのトラックでしたが、私のトラックはキャンピングカーのような上に寝るスペースがあるタイプで、そのスペースには緊急時の脱出用にサンルーフが付いており、私はカバーを外して星空を見ながら横になり、ぼーっとしていました。
そして少し眠くなりかけた頃でしょうか。
外でなにやら数人の人が話す声が聞こえました。
「このトラックか?」
「いや、どうだろう…」
私は一瞬で目が覚めて、外の声に耳を傾けていました。
警察でも来て何か調べているのかな?と思って、ふとサンルーフに目をやると、なんと少女らしき子がこちらを覗いています。
突然の出来事に私は金縛り状態になり、声を出すこともできませんでした。
「ちがうよ~」
少女はそう言い残し、サンルーフから姿を消しました。
私は慌ててサンルーフを外して屋根を見渡しましたが、そこには誰もいませんでした。
夢か?と一瞬そう思いましたが、サンルーフには手形らしき跡がくっきりと残っています。
怖くなって慌てて外に出ると、同僚が何か脅えた様子で外にいました。
「今、車の中に誰か数人入ってきて、この人じゃないって消えていった…」
私も今起こった状況を説明した後、私たち二人は慌ててそのパーキングを出発し、帰りもなるべく携帯で話をしながら会社まで戻りました。
会社に帰るとベテランの同僚がいたので話をしてみたところ、「ああ、たぶん昔の事故のやつだよ」と、過去にあの場所で起きたことを教えてくれました。
あのトンネル付近で乗用車とトラックが絡む事故があり、乗用車に乗っていた家族3人が亡くなってしまったそうです。
事故原因はトラックの運転手の言い分が通り、よって乗用車の運転ミスということになり、そのトラックの運転手はお咎めなしになったと。
実際の事故原因はわからないのですが、“たぶんあの場所で自分たちを殺したトラックを探していた”のだと思います。
私はこれまで霊などその類の話は信じない方でしたが、まさか自分がこんな体験をするとは思いもしませんでした。
サンルーフに付いた手形の跡を会社の連中に見せたところ、みんな物怖じしてしまい、社長の指示で祈祷師のような方に私のトラックを御祓いしてもらいました。
現在も上信越のその場所は通りますが、あれ以来そのようなものを見聞きすることはありません。
(終)