東野
小学校の体育の時間、グラウンドに集まっていると、
東野というクラスメイトが居なくなっていた。
どこへ行ったのかと、みんなで話していると、
誰かが校舎を指差し、
「あれ、東野ちゃうか?」
と言った。
見上げると、3階の窓から
顔らしきものがこちらを見ていた。
それは確かに頬杖をついている東野のように見える。
しかし、肌色の輪郭だけは、わかるものの、全体がぼんやりしていて、
目を凝らしても目鼻立ちを認識できず、顔の表情がつかめない。
先生は生徒を3階に見に行かせ、
その間もグラウンドのみんなは顔がそこにあるのを目撃していた。
にも関わらず、戻ってきた生徒は、
「3階の廊下には誰もいない」と言った。
「そんなことあるか!あれは誰や?」
先生は焦ったように叫んだ。
階を間違えた可能性もあるんじゃないか、ということで、
もう一度、別の生徒が見に行ったが、やはり誰もいないとのことだった。
結局、東野は見つからず、顔の存在もそのままで、
休憩時間になって、みんな教室に戻った。
東野は、その次の次の授業ぐらいに、ひょっこり帰ってきた。
講堂かどこかの裏で昼寝をしていたらしい。
あの顔は、なんだったのだろう。
幽体離脱した東野だったのか。
その後も、朝礼や体育の度に、3階の窓を見たが、
顔らしきものを見ることはなかったし、霊的な体験をしたのもそれっきりだ。
(終)