あの子は誰だったんだろう
これは、僕が学生の頃の話。
ある授業中、僕はうつ伏せで居眠りをしていた。
すると、誰かにトントンと肩を叩かれて、ぱっと目を覚ますと床と足が見えた。
靴下にサンダルだったので、「やべぇ、先生だ!」と思って勢いよく顔を上げて振り返ったが、先生はいなかった。
その時に、後ろの席の女子と顔を合わせる感じになったが、その子もビックリしていた。
先生は教卓にいて、相変わらず授業を進めていた。
「夢かな?」と思ってもう一度眠ろうとしていたところ、またトントンと肩を叩かれた。
ビクッとしてまた勢いよく振り返ると、後ろの席の女子が折りたたんだ紙を差し出してきた。
受け取って開いてみると、『見えたの?』と書いてある。
ゾッとした僕は、さっきの一部始終を書いて返した。
そしてまた返ってきた。
その子によれば、この学校には大人の男の人がいるようで、廊下から教室の中を見ていたり、たまに中に入って来たりするが、悪いものではないという。
その子と話したのは後にも先にもその時だけで、そのまま卒業してしまった。
ただ、当時のクラスメート数人と怖い話をした時にこの出来事を話したのだが、誰もその子のことを覚えていない。
そういえば僕も、その子の名前を知らない。
卒業アルバムにもいない。
あの時にやり取りした紙も無くなっている。
あの子は誰だったんだろう?
未だにわからない。
(終)