拾った携帯電話を交番に届けた一週間後
これは、不可解な出来事に遭ってしまった時の話。
その日、趣味のバス釣りで郊外の池に来ていた。
そこで『携帯電話』を拾った。
携帯電話には操作ロックがかかっている。
その日の夜は用事があったので、翌日に警察へ届けることにした。
しかし、就寝中の夜中にその携帯電話に着信があったようだ。
マナーモードの振動音がテーブルから響き、少しだけ目を覚ました。
翌朝は早めに起き、駅前の交番に届けた。
それから一週間ほど過ぎた夜、私の携帯電話に知らない番号から着信があった。
出ると、あの携帯電話の落し主のようだ。
相手は中年男性だろうか。
“お礼がしたい”と頻りに言われるが、丁寧にお断りする。
だが、次の夜もその次の夜も男性からまた着信があった。
あまりのしつこさに腹が立ち、その電話には出なかった。
その後すぐ部屋を出て、駅前の交番へ行った。
何度もお礼のお断りをしているのに、しつこいから迷惑だと。
しかし、警察官は書類を引っ張り出してくるや、怪訝そうな顔で私を見る。
「その携帯電話の持ち主はまだ現れていませんよ?」
そう言って、奥のロッカーからその携帯電話を持ってきて見せてくれた。
訳がわからなかった。
私は事情を話しながら自分の携帯電話を出して、着信履歴からあの携帯電話の番号にかけてみた。
すると、目の前で机の上のその携帯電話が振動し、呼び出されている…。
警察官も不思議そうな顔をして見ていたが、とりあえずその電話番号を控えるだけだった。
後はお決まりの言葉で、調べておきますね、と言われて帰宅した。
その夜だった。
突然、ドンドンドンと玄関のドアを叩く音で起こされた。
そして、「お礼、させてくださいよぉ~」と言う声。
あの男だ。
なぜ私の住所がわかったのだ?と、嫌な汗が湧き出た。
私はドア越しに、お礼ってまだ携帯電話を取りに行っていないじゃないですか、と言った。
すると男は、「早く俺を見つけて、お礼、させてくださいよぉ~」と言う。
俺を見つけてって…そこにいるじゃないですか、そう言うと、「俺はここじゃない。早く見つけてくださいよぉ~」と言う。
私は激しく怖くなり、頭から布団を被って朝まで震えていた。
翌朝、警察から話が聞きたいと電話が入った。
交番に行き、地図を広げて携帯電話を拾った付近を伝えた。
その夜、また警察から電話があり、事実の一部を知る。
あの池から溺死体が見つかったと。
それに携帯番号から持ち主を探していたところ、捜索願いが出されていたことと、携帯電話ビジネスで騙され自殺したがっていたと。
私は翌日、花を持ってその池に出向いた。
『見つかったけれど、お礼にはもう来ないでください』
心の中でそう伝え、手を合わせて合掌した。
(終)