裏山で見てしまった恐ろしい集団 1/2
俺がまだ学生だった頃、大学の先輩がどこからか怪談話を聞いてきて、得意気にサークル部屋で話していた。
その話というのが、60年代か70年代頃に、当時うちの大学もいわゆる安保闘争とかいう学生運動が盛んだったのだが・・・。
その中の結構な数の一団が、テロ的な活動ではなく、何かオカルト的な儀式による革命のようなものに大真面目にはまっていたらしく、大学の裏山の既に使われていない建物内で『何らかの儀式をしたらしい』という話だった。
そこで4人が見たものとは・・・
そして、ここからがありがちな話なのだが、儀式の結果『何か』を呼び出してしまったようで、学生の何人かがそれを見て発狂し、殺人事件にまで発展したと。
今でもその廃屋には、その時に殺された学生や『何か』がまだ潜んでいるという、そんなベタな話だった。
俺は、「オチそんだけかよ!」と心の中で突っ込みを入れた。
確かに大学の裏には小さな山がある。
そこの大部分は森というより藪だが、そもそもあそこに建物なんてあったか?あれば気付くよな?などと考えていると、先輩が突然「今日の夜、その建物を探しに行こうぜ!」と訳の分からない事を言い出した。
その時に部屋に居たのは、俺と先輩。それに、俺と同じ1年の田中(仮名)と松本(仮名)だったのだが、ノリノリなのは明らかに先輩だけ。
俺と田中と松本の3人は、「マジかよ・・・」と明らかに面倒くさそうに顔を見合わせた。
さっきまで居たはずの他の先輩達はいつの間にか居なくなっている。
多分、色々と察して逃げたのだろう。
実はこの先輩、普段から面倒見が良く凄くいい人で、周囲の評判も上々で友達も多い。
なのだが、なんというのか・・・、やたらこの手の話に騙されやすい上に、無駄に行動力もあり、良い人ゆえに俺達は断れず、何度か先輩のこの手の『探検』に付き合わされたことがあった。
その夜、俺達は結局先輩の探検に付き合い、その”あるかどうかも分からない建物”を探す事になった。
季節は夏。
山の中に入れば当然ヤブ蚊がいっぱいいるし、夏なのでやたら暑い。
要するに、山の中を歩き回れば蚊に刺されまくるし、無駄に汗だくになる。
俺はぶっちゃけ、「建物は見付からずに朝まで山の中を歩き回る事になるんだろうな・・・」と覚悟を決めていた。
そんな俺とは真逆で、やたらハイテンションな先輩。
そして、この後の展開を考えると色々と重苦しい雰囲気の俺達1年の3人は、大学の裏道から雑草が生い茂った明らかに何年も人が入っていない山道を進んでいった。
山道に入り、40分ほど歩いた頃だろうか。
なんと、意外とあっさりとコンクリートで出来た小さな資材置き場のような建物を見つけた。
俺達3人は意外と早く見付かった事にホッとしたが、どうも先輩もこんなにあっさり見つかるとは思っていなかったらしく、さらにテンションが高くなっている。
正直なところを言えば、建物はあったが実際ここが目的の場所かどうかなんて分からない。
分からないのだが、「次を探そう!」などと言われたら堪らない俺は、その事を先輩に黙っていた。
俺と田中と先輩が近付いて中の様子を探ろうとすると、急に松本が真顔で「ちょっと待った!」と俺達を小声で呼び止めた。
松本は3人に姿勢を低くするようにジェスチャーすると、「あそこに誰かいるぞ!」と建物の窓を指差した。
俺達は松本の指が指すその方向を見てみた。
明かりも点いていないので気付かなかったが、窓のところにはハッキリと人影が映っている。
髪型からして女性だろうか。
この時になって、俺は昼間の先輩の怪談話が頭を過(よ)ぎった。
「いや・・・まさかね・・・」
そうは思ったが、背筋が寒くなり、暑さとは違うイヤな汗が体から吹き出てくる。
俺だけでなく、田中と松本も多分同じように感じていたのだと思う。
2人とも一言も言葉を発さずにジッとしていた。
・・・だが、先輩だけは違った。
先輩は、「人が居るなら噂が本当か訊いてみねぇ?」と、とんでもない事を言い出した。
俺は唖然として、「この人は物凄く勇気があるのか?それともありえないくらいバカなのか?」と真剣に先輩の思考を疑った。
『真夜中に真っ暗な廃屋内で何かをしている人影』
怪しいにも程がある。
仮に人だったとしても、とてもまともな人とは思えない、そんな怪しい人物に自分からか関わろうなどと普通は思わないだろう。
良く考えると、こんな真夜中に男4人で山の中をウロウロしている俺達が、人のことを言えた立場ではないのだが。
とにかく先輩を思い留まらせないといけないと感じた俺達3人は、思い付く限りの事を色々と言ってみて、先輩を踏み止まらせようとした。
だが、その会話の声が少し大き過ぎたのかも知れない。
ふと気付くと、窓のところにあった人影が無くなっている事に田中が気が付いた。
俺達4人は辺りをキョロキョロとしていると、ドアのところに人影が見えた。
ビクッ!となった俺が、思わずその人影に懐中電灯の光りを当てたのだが、その姿は異様としか言いようのない姿で、俺達はヘビに睨まれた蛙のように身動き一つ出来なくなってしまった。
年齢は50代後半から60代くらいのどこにでもいそうなおばちゃんなのだが、髪の毛は長くてボサボサだった。
血まみれのエプロンをして、右手にはデカイ包丁。
左手には何か原形を留めていない血まみれの肉塊を握り締め、何かブツブツと呟きながら物凄い形相でこちらを睨み付けている。
おばちゃんは暫らくこちらを睨み付けていたが、唐突に悲鳴とも絶叫とも聞こえるような凄まじい声で、「誰だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫んだ。
そうして早足にこちらに向かって来た。