腹切り地蔵が安置してある場所にて
私の住んでいた田舎は県境にある為、
昔から他県との小競り合いが多かったらしく、
地名にも赤芝(芝が血に染まった)や
生捕(武将を生け捕りにした)など、
血生臭い由来が残るそんな場所でした。
そんな場所で体験した、
私の洒落にならなかった出来事を
お話したいと思います。
霊道といわれる場所で見たものとは・・・
鎌倉中期に甲斐源氏として、
関東一帯に隆盛を誇っていた名将
安田義貞の切腹した場所には、
上半身より上が無い地蔵が安置してあります。
それは文字通り、
“腹切り地蔵”と呼ばれています。
その地蔵もいわく付きで、
当初は安田義貞の霊を静める為、
普通の地蔵を安置していたのですが、
次の日には上半身が削り取られ、
上半身が無い地蔵が安置されていた、
という言い伝えが残っています。
当時、酷い霊障に悩んでいた私は、
知り合いの霊媒師に色々と相談を
していたのですが、
「腹切り地蔵って実はどうなの?」
と薄々ヤバイと感じていた事を、
軽い感じで尋ねてみました。
すると、
その霊媒師は真剣な顔で、
「あそこの裏山にある墓から
腹切り地蔵までが“霊道”になっている。
昼でも500以上の霊が集まる。
夜はとても数え切れない。
特に“深夜2時以降は悪霊も集まる”ので、
興味本位や冷やかしで、
あそこには近づいてはいけないよ」
と言われました。
そこは見通しも良く、
決して事故など起こりそうにない場所。
・・・なのですが、
不可思議な交通事故が絶えません。
民家も近くにほとんど無く、
薄気味悪い場所として地元では有名です。
過去に何度か御祓いもやっているようですが、
効果は無いようです。
私にはその場所(腹切り地蔵)のすぐ近くに
住んでいる友達がいるのですが、
夜の10時くらいに遊びに行っていました。
もちろん泊まるつもりだったのですが、
急用が出来て深夜2時頃に帰らなければ
ならなくなってしまったのです。
友達には引き止められました。
何故なら、帰るには腹切り地蔵の前を
どうしても通らなければならないからです。
「あんたは霊感があるから通らない方がいい」
しかし急な用事のせいで、
無理をして帰る事にしてしまったのです。
後の恐怖も後悔も知らずに・・・
私は車に乗込み、
エンジンをかけました。
夏なのに酷く肌寒い。
腹切り地蔵周辺は街灯等の明かりが
ほとんど無い場所なので、
頼りは車のヘッドライトだけでした。
まだ地蔵に差し掛かる前でしたが、
どうも嫌な感じがしたんです。
(空気が違う・・・)
ねっとりとした気配を感じるのです。
既に全身の毛は総毛立ち、
第六感が敏感に警報を鳴らし続けます。
(誰か見ている?視線!?)
私は気配を感じる方に目をやりました。
その時の私の心境を、
どう言葉にすれば良いのか・・・
何故なら、
道下のガードレールの隙間から、
大勢の人が見ているのです。
私を見ていたのです。
ガードレール下の隙間には、
沢山の並んだ顔。
私の車がそこを通り過ぎると、
その顔は動かず目だけで追うのです。
沢山の視線が私を追ってきました。
底知れない恐怖。
私は押し潰されそうな恐怖で車を走らせ、
ついに腹切り地蔵の前に差し掛かりました。
その時、
地蔵脇から子供の靴が片方だけ
道路に転がってきました。
放り投げられたと言った方が
正しいのかも知れません。
赤い子供用の小さな靴でした。
私は絶叫していました。
なんとか家にたどり着いた私は、
その事を友達に話したのですが、
そこで子供や大勢の人が死んだという
実例は近年ありませんし、
ガード下は高い段差になっているので、
人がそこから覗くのは不可能だとも・・・
しかし、ガード下の隙間からは、
確かに沢山の人が私を見ていました。
そして、道端に転がってきたのは、
間違いなく子供の靴だったのです。
私は一体何を見てしまったのでしょうか・・・
(終)