サークル仲間と馬鹿騒ぎした翌日に
大学の同級生から久しぶりに忘年会の誘いがあって思い出した事がある。
大学3年の12月、サークルの連中と飲んでいた。
2次会が終わったところで、何人かが終電に間に合うようにと帰っていった。
俺は5人くらいの仲間と残り、朝まで安い居酒屋で時間を潰して始発で帰った。
次の日、家で爆睡していたら、昼過ぎに仲間の一人から電話がかかってきた。
昨晩、先に帰ったKが事故で死んだと聞かされた。
後に怪死事件と週刊誌に書かれる
その日の夕方、締め慣れないネクタイに悪戦苦闘した後、Kの通夜会場に向かった。
昨日の夜はあんなに馬鹿騒ぎしていた連中が、今日は喪服姿で神妙にしているなんて、不思議な光景だった。
おまけに一人は棺桶の中・・・。
通夜会場を早めに後にして、俺達は帰り道にあったファミレスに入った。
そして、Kと一緒に帰ったSから事故の話を聞いた。
KとSは同じ方向だったので、途中まで同じ電車に乗って帰っていた。
その当時、KとSは俺達の間では微妙な関係だった。
元々Kの彼女だった女の子が、Kとはっきり別れないうちにSに乗りかえようとしているみたいな噂があり、事情を知っている俺達何人かは結構ヒヤヒヤしながらその三角関係を見守っていた。
Kは、彼女とSの関係をまだ知らないと俺達は思っていた。
電車の中でKは何か考えている様子で、Sが話しかけてもただずっとニヤニヤしているだけだったらしい。
そのうちKの乗り換えの駅に着くと、Sに「お前も気を付けて帰れよ」と言い残して降りていった。
ドアが閉まり、SはKに向かってガラス越しに手を上げた。
(その時に「Kは凄い顔で睨み付けた気がする」とSが後から言っていた)
Sを乗せた電車は、深夜にしてはかなりの数の乗客を乗せて動き始めたが、5メートルも進まないうちに突然ガタンと急ブレーキをかけて止まってしまった。
かなり長い間、Sを含めた乗客を乗せたまま電車は止まっていた。
そして車内アナウンスが流れ、Sはこの電車で人身事故があったことを知った。
ドアが開いてSは外に出ると、駅構内は大騒ぎだった。
事故は電車の先頭であったらしく、人だかりが出来ていた。
SはKがまだホームにいるんじゃないかと思いながら、その方向に歩いていった。
事故は、動き出そうとした電車の前に人が落ちたか飛び降りたかして電車の下に入ったらしく、何人もの駅員が線路に降りて大声を上げながら電車の下を覗き込んでいた。
野次馬に混じりSもホームから様子を見ていたが、やって来た救急隊員が電車の下から引っ張り出してきた被害者のものらしい上着を見てSは青くなった。
それは、俺達サークルのスタジャンだった。
その後のSは、Kの家族と病院へ行ったり警察の事情聴取やらで大変だったらしい。
一睡もしてないらしくて、目は真っ赤で凄くやつれた顔をしていた。
Sは焦点の合わない目をしながら俺達に向かってしきりに、「どうしてあいつが俺の乗ってた電車の先頭に落ちられるんだよ。俺達は後ろの方の車両に乗ってたんだぜ。どうやったらそんなに早く移動できるんだよ」と言っていた。
その後この事故は、小さくだけど週刊誌に『怪死事件』として書かれた。
電車の運転士もKが落ちるところを見ていなかったらしい。
Sが警察に疑われているとか、サークル仲間のところに刑事が来たとかの噂が流れて、なんとなくSとは疎遠になり、卒業後は音信不通になってしまった。
Sが嘘をついていたのかどうかは謎だが、少なくともその時は作り話をしているようには俺には見えなかった。
(終)