記憶より一年進んでいた現実
私がおかしいだけなのかも知れないけれど・・・。
小学5年の時、私は同じクラスのA子にいじめられていた。
A子の口癖が「お前なんか姐さんにボコボコにされろ」だった。
姐さんが誰の事か分からなかったし、イントネーションが変だったので印象に残っている。
小学6年になった時、A子からのいじめは一旦無くなったが、中学校に上がった時にA子を中心としたいじめが前よりエスカレートした。
中学1年の2学期から登校拒否になり、そのまま卒業式すら出なかった。
私は他県の寮付きの高校に合格し、春休みになると逃げるように地元を出た。
小学校や中学校の時の友達とは、当時携帯を持っていなかった事もあり疎遠になった。
数年が経った頃、A子に偶然出会う
高校での生活は快適そのものだった。
私の過去を知っている人は誰もいなく、友達も沢山できた。
だから、高校を卒業してもそのまま他県で就職し、地元へ帰らなかった。
数年が経った頃、いつも通り会社終わりに電車で帰宅中、珍しく座れたので少し寝ようと目を閉じた。
でも、なんだか視線を感じて目を開けると、向かいの席にA子が座っていた。
いじめられていた側からすると何年経ってもトラウマだし、まさか会うとは思っていなかったので冷や汗が止まらない。
A子が立ち上がり、こちらに寄ってきた。
何を言われるのかとビクビクしていると、「姐さんお久しぶりです!会えて嬉しいです!」と。
訳が分からなくて固まっていると横に座ってきて、私のことを「姐さん、姐さん」と呼んで昔話をしてくる。
当時は「お前」とか「苗字」で呼び捨てだったのに。
恐る恐る「なんで姐さんなの?」と言うと、A子は何を言ってるんだという不思議な顔をし、「だって姐さんは姐さんだし、一個上じゃないですか」と。
「いやいや、タメじゃん。同じクラスだったじゃん」と言っても、「何言ってるんですか!」と笑われる。
話を聞くと、小学生の頃から一個上の私を慕って姐さんと呼んでいたと言う。
そこで、当時のA子の口癖の「お前なんか姐さんにボコボコにされろ」を思い出した。
A子がふざけているのかと考えているうちに、A子は地元行きの電車に乗り換えると言い降りて行った。
なんとなく気になり、次の休日に実家へ帰った。
自室の押し入れの奧にしまったままの小学校の卒業アルバムを開いて唖然とした。
私の同級生として写っているのは知らない人ばかりだった。
同じクラスの友達や同級生として記憶している人は一人も写っていない。
念の為、一回も開いた事のなかった中学校の卒業アルバムも見たけれど、やっぱり同じ。
一個上の人たちの卒業アルバムを間違えて渡したのかと思ったけれど、集合写真の前列には自分がしっかり並んで写っていた。
それに、地元へ帰る度に一個上の先輩から「同級生」として声をかけられる。
また、私自身が同級生として記憶している人や友達からは「先輩」として扱われる。
脳外科や精神科病院で検査しても異常は無かった。
両親や掛かり付けで信頼している医師に問い詰めても、記憶が飛ぶような怪我などは一切していない。
一時期、無理矢理に納得しようとしたけれど、友達や同級生との楽しかった思い出を思い出す度に寂しくなる。
(終)