キャンプ場で人探しをするズブ濡れの若い男

テント

 

襟裳岬近くに、『百人浜オートキャンプ場』という所がある。

 

一昨年に北海道へ行った際、途中で一緒になった京都のセロー乗りの人に今夜は百人浜へ泊まろうと思っている事を話すと、彼は真面目な顔で「やめた方がいい」と言う。

 

結局、彼と一緒に神居古潭(カムイコタン)のキャンプ場へ泊まったのだが、これはその夜に彼から聞いた奇妙な話。

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「すいません、違うみたいです」

彼が百人浜に泊まったのは4年ほど前。

 

9月の平日で、キャンプ場には人が5~6人位しかいなかったそうだ。

 

その日は早めに夕食を済ませ、22時頃には床に就いていた。

 

ウトウトしながら、テントの生地を通して月の明かりが見えていた事をよく覚えているという。

 

そのうち、足音が彼のテントに近づいてきた。

 

そして、彼のテントの前でその足音は止まった。

 

あれ?誰だろう?と思いながらも、まだ夜も早いし誰かが散歩でもしているのかと思い、気にもしなかったそうだ。

 

・・・が、しばらくしてテントの外から声がする。

 

男の声で「すいません」と。

 

ん?と思いながらテント出入り口のファスナーを開けて顔を出すと、歳にして25~30歳位の男が立っていた。

 

彼が「何?」と聞くと、その男は「人を探しているんですけど」とだけ言って、その彼の顔をじっと見つめていた。

 

そして少し間を空けてから「すいません、違うみたいです」と言うと、テントに背を向けてトボトボと歩いていった。

 

彼は変な奴だな・・・と思いながら、テントのファスナーを閉めてまた寝ようとしたところ、おかしな事に気づいた。

 

その日は一日天気は良かったのだが、その男は頭からずっぽりと濡れていたのだ。

 

まるで海で泳いできたような感じだったそうだ。

 

彼は慌ててテントから顔を出し、さっきの男が歩いていった方向を見てみたが、すでに姿はなかった。

 

なんで濡れているんだ?なんでこんな時間に人のテントに来て人を探してるのだ?と思いながら、その日は結局一睡もできなかった。

 

翌朝、6時にテントから起き出して、彼は洗面場で昨晩の男が顔を洗いに来るのを待っていた。

 

しかし、その男は現れなかった。

 

ここには泊まっていないのか?

 

そう思って、他の連中に昨晩の話をしてみた。

 

するとその晩、彼を除いてライダーが4人泊まっていたのだが、4人のうちの一人を残してみんな知らないという。

 

しかし、そのうち一人は「俺の所にも来たよ。天気も良いのにズブ濡れで気味が悪いと思ったんだよ」との事。

 

結局その晩、5人のうち二人だけがズブ濡れの男に遭遇したわけだ。

 

その二人には特に共通点はない。

 

バイクも違うし、テントの色も違う。

 

もちろん住んでいる所も違う。

 

本当に共通点はないのだ。

 

しかし話を進めるうちに、一つだけ共通点がある事がわかった。

 

それは、彼らは前日の朝に同じフェリーで小樽に入っていたのだそうだ。

 

僕がその彼と一緒になった時にも、実は同じフェリーで小樽に入っていたのだが、彼はその事と僕が百人浜に泊まろうと言った事で、そのズブ濡れの男の事を思い出し、“またあいつが来るんじゃないか”と思って僕を別のキャンプ場へ誘ったそうなのだ。

 

もしあの日、その彼と一緒に百人浜に泊まっていたら一体どうなっていたのだろうか。

 

(終)

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