奇声を上げて慌てるおばさんの腰の辺りに
これは、図書館であった奇妙な話。
昔、といっても2年前のこと。
俺は国家公務員を目指して猛勉強していた時期があった。
ある秋の暮、いつもなら学生で賑わう図書館が、珍しく俺を含め4人程しかいない日があった。
非常に静かな時間が流れていたのだが、突然奇声を上げながら小太りのおばさんが小走りで入ってきた。
何事か?と思いおばさんを見ると、腰の辺りに灰色の霞というか煙というか、少し形容しづらいものがくっ付いているように見えた。
目の錯覚だったのか、それはすぐに見えなくなった。
・・・と思えば、それは近くにいたおじさんに向かってスーッと移動して、おじさんのお腹の辺りに吸い込まれるように消えていった。
おじさんと客の一人は煙のようなものに気づいていないらしく、おばさんをチラチラと見ている。
その他に一人、おじさんとおばさんと俺を見回す女性がいた。
その間、おばさんは小走りのまま館内をウロウロする。
トイレに入ろうとしたが、結局は入らずにそのまま出ていった。
自慢ではないが、俺は霊感的なものは一切無いと思うほど、その手のものには鈍感だ。
だがあの時、あの煙のようなものを目にした瞬間、全身に鳥肌が立ち、腰の辺りからくるゾクゾクが止まらなかった。
あれが何なのかも分からないし、その後おじさんがどうなったかも分からない。
出来れば二度と関わりたくない。
余談だが、その後に国家公務員試験は二度受けて二度落ち、今ではバイト代をパチンコに費やす平穏無事な借金生活を送っている。
人は何処までも堕ちることが可能だと悟った。
(終)