魚よ、世界から消えてくれ。
これは、長い年月のあいだ続いている不可解な体験話。
子供の頃のこと、ベッドに40~70センチの生きた『ボラ』が落ちていた。
俺は一人っ子なので、こんなイタズラをする者は家にいなかった。
結局、じいちゃんがつまらなそうな顔をして粛々と捨てていた。
今ではシラスしか食えない
学生生活を終えて大人になり、新宿ビル街の都庁前あたりを歩いていた時、唐突に上から大きな魚が降ってきて、アスファルトの上でビタビタと暴れていた。
ボラだった。
周りはどうせトラックの落とし物と思うのか、関心を寄せる人は皆無だった。
ボラは後続車に轢かれて体の半分が潰れた。
誰もがスルーしている中、一人の普通っぽいサラリーマンがひょいとそれをブラ下げて、ゆっくりとした足取りで去っていった。
俺は親父になり、やや死のうかな・・・と思いながら川面を眺めていた時、体の半分が潰れたボラが悠然と泳ぎ去っていった。
さらに歳をとり、釣りしていた時に外道のボラがかかってしまった。
しかし、海面からボラを上げたあたりで急に貧血のようになり、気づいたら釣り座に横たわって寝ていた。
なぜかボラを頭から丸かじりにして、口から魚体をはみ出させる形だった。
意識が戻った時にはボラは完全に死んでいたことから、たぶん意識の無かったのは5分か10分くらいだろう。
長い年月の間の出来事だから偶然が重なっただけだとは思うが、なんだか気持ちが悪い。
おかげで、もう魚を食う気がしなくなった。
今ではシラスしか食えない。
煮干し以上の大きさの魚は怖い。
つい最近、西新宿の公園の中で、ボロボロの大きな血まみれの魚を下げた男とすれ違った。
ただ男の服装が変で、それなりに本格的な神社の神官みたいな恰好をしていた。
なんなんだよもう・・・。
魚よ、世界から消えてくれ。
(終)