人外のモノは「もしもし」と言えない
これは、もうすぐ七回忌を迎えるじいちゃんに聞いた話。
じいちゃんが子供の頃は、暗くなってから道ですれ違う人に「もしもし」と声を掛け合うのが習慣だったとか。
なぜなら、人外のモノは繰り返し言葉を言えないから、だそうで。
その日、近所の子供たちと6人で神社で遊んだじいちゃんは、暗くなり始めた頃に全員で神社をあとにした。
そして田んぼの間の道を抜け、集落に向かっていた途中に、女が向こうからやってきた。
先頭を歩いていたじいちゃんは「もしもし」と声を掛けたが、女は足を止めて黙っている。
何か話そうとしているのか?と、じいちゃんも他の子供たちも足を止めた。
すると、女はスロー再生のようにゆっくりと口を開いた。
「も~~~し~~~」
暗くて顔はよく見えなかったが、やけに口の中が真っ黒に見えた。
間延びした、地を這うように低い声で女がそう言うのを聞いて、じいちゃんたちは全速力で逃げ出した。
神社から一番近い子の家に逃げ込み、その子の親に今しがたの出来事を話したが、かわれたんだろうと笑われる。
あれは人間の声ではなかったと反論しても、鼻であしらわれるばかり。
ただ、渋々その子の家を出た時に、そこでようやく人数が“1人足りない”ことにみんな気づいた。
逃げ込んだ家の子は2人。
残り4人いないといけないのに、3人しかいない。
それなのに、誰がいなくなったのか誰も思い出せない。
いつも同じ6人で遊んでいて、この日も花いちもんめを3人ずつでやっていた。
もう一度さっき別れた子たちの家に行って訴えるも、大人はみんな“ここの集落に子供は5人しかいない”と笑う。
各々が家に帰って家族に訴えても、どこも同じ答えだった。
いなくなったのが男だったか女だったかすら思い出せない。
でも当時は二列に並んで喋りながら登校していたので、間違いなく6人いた。
じいちゃんはそう話していた。
孫を怖がらせる与太話かもしれないが。
「牛の鳴き声みたいな気味の悪い声だった」
じいちゃんは真面目な顔でそう言っていたのが忘れられない。
(終)