7人での登山中に起きた不可解な出来事
これは、去年の秋の話。
10年以上の付き合いがある気心知れた6人の仲間と俺は、7人パーティーで山を登っていた。
俺はサブリーダーで、常に列の最後尾を努める。
山に入り小峰を制覇し、決められたルートを次々にこなしながら順調に登山は進んだ。
しかし、昼飯も済ませて全行程の60%ほどが過ぎたところで、何故か急に足が重くなった。
痺れたり疲れているのではない。
元気は十分だった。
最初は気にせずにいたが、徐々に重くなり、10分もすると全く歩けないほどに重くなってしまった。
俺は仕方なく、先頭を歩いているリーダーに「ちょっと休もう」と呼びかけた。
だが、返事がない。
というより、俺の声が聞こえている様子がない。
何度か大きな声で呼んでみたが、全員が声が聞こえた様子もなく、どんどん離れていく。
普段なら、リーダーは常に列の全員に気を配っているのでこんな事はありえないのだが、その時はリーダーを含めた全員が振り返りもせず、むしろ途中から小走りになってすぐに視界から消えるほど離れてしまった。
俺は足の具合もあり、とりあえず落ち着くために荷物を降ろし、お茶を飲んだ。
そして自分の足を確認してみたが、怪我をしているわけでもなく、疲れてもいなかった。
しかし、何故か歩けないほど重くなっていた。
だが、お茶を飲んで10分ほど座っていると少しだけ重さが和らいだので、列に追い付くためにゆっくりと歩き始めた。
そして歩き始めて5分もしないうちに、後ろの方向からどこかのパーティーが来る気配に気づいた。
ただ、それに何か見覚えがある。
目を凝らしてみると、それは自分達のパーティーだった。
自分以外の6人が歩いて来るのだ。
逸れた俺を探しに来てくれたのか?
しかし、どうやって下山方向から?
そう思いながら待っていると、来たはいいが俺の目の前を通り過ぎていく。
それにどれだけ声をかけても、まるで俺が見えていないかのようだった。
俺は6人をギリギリ視界に留めながら、追い付こうと必死に歩いた。
そしてなんとかベースキャンプまでたどり着いたその足で、リーダーに問い詰めた。
どうして無視したのか、と。
リーダーはキョトンとしていた。
リーダー曰く、無視などしていないし、途中に俺を探す為にルートを変更などもしていないし、むしろ俺は列から逸れずちゃんと最後尾を努めていたというのだ。
しかも、俺を含めた7人がベースキャンプに着いてから、もう1時間は経っているという。
冗談ではない。
俺にしてみれば、たった今やっとの思いでここに着いたというのに。
しかも6人をこの目で追いながら。
全く話が噛み合わない中、リーダーが言った。
「そういや途中で最後尾のはずのお前がルートの先で待ってたけど、あれどうやって俺達を抜いたんだ?俺達はビックリして走って近づいたんだが、まるっきり俺達を無視して最後尾に付いてたけど?」
その後は時間の話になり、お互いの時計を見ると、朝の時点でみんなで確認したはずの時間がちょうど1時間ズレていた。
(終)