その川では後ろ姿の女性がよく目撃される
これは、友人から聞いた奇妙な体験話。
山深い川で魚を釣っていると、左手の方に人影が見えた。
目をやれば、ワンピース姿で長い黒髪の女性が、川の中程に立っていた。
太ももまで水に浸かり、こちらに背を向けているので、表情は見えない。
いつからそこに居るのか、全く気が付かなかったという。
「妙だなぁ。あそこは流れが強くて、とてもあんな細い女性が立っていられるような場所じゃないのに…」
ピクリとも動かないその後ろ姿を見ているうちに、だんだんと薄気味悪くなってきた。
納竿して帰ることにしたのだが、最後に振り返った時も、その女性はずっと同じ姿勢のまま急流の中で立っていた。
釣り仲間に聞いたところ、昔からその川では女性の後ろ姿がしばしば目撃されていたらしい。
それに、当時は着物姿だったという。
気味が悪いので、これまで誰かが声をかけたという話はないそうだ。
また、その顔を拝んだ者もいないという。
「まっ、声をかけた人が無事に帰って来てないだけかもしれないけどね」
しれっとした顔で、最後に彼はそう付け加えた。
(終)
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