体育館の舞台下で見つかった異様な存在
これは、高校で実際に体験した話。
どこの学校でも似たようなものだと思うが、俺の通っていた高校の体育館にも、もちろん正面には備え付けの『舞台』があった。
この舞台の床下は大きい引き出しのようになっており、中には卒業式などで使用するパイプ椅子が詰まっている。
それが起きたのは、2年生の夏休み直前のことだった。
全校清掃という行事で、俺たちのクラスはその舞台下の巨大引き出しを掃除することになった。
主な掃除箇所は、引き出しのレール部分に出来たサビをガシガシ磨く作業だ。
まずはパイプ椅子が詰められた全ての引き出しを体育館内のフロアに引っ張り出してから、薄暗い舞台下へと潜り込む。
夏場の体育館はただでさえ蒸し暑いのに、舞台下は湿気がこもっており、クラスのみんなもグチグチ文句を言いながら作業を始めた。
そうやって掃除を始めて10分程した頃、舞台下の奥の方から「ギャッ!!」という声が聞こえた。
何があったのかと、掃除の手を止めて声のした方へと向かうと、薄暗闇の中で江口君(仮名)が自分の足首を抱えるようにうずくまっている。
周りいたみんなが「どうした?」とか「大丈夫?」と声をかけると、江口君は「っっ…!!」と痛みを堪えながら、「この辺、段差あって凹んでるから気をつけて」と注意を促す。
どうやら、暗い中で段差に気づかずにすっ転んでしまったらしい。
誰かが「ケガは?」と口にするが、暗くてよくわからない。
そこで、近くにいた山根君(仮名)がポケットから携帯を取り出して、江口君をライトで照らす。
江口君は痛そうに顔をしかめているが、パッと見では外傷はなさそうな感じがした。
江口君のケガが大したことなさそうだったので、周囲にホッとした空気がうまれる。
しかし、ホッとしたのも束の間、江口君がうずくまっている場所の“異様さ”に気づくと同時に、背筋にゾッと悪寒が走った。
そこはコンクリートの床で、深さは10センチ程あり、縦横1メートルの正方形の窪みがある。
その真ん中にはマンホールのような黒っぽい色の、おそらく金属製の蓋。
ただこれだけでは、「なんで舞台下にマンホール?」と、思うだけかもしれない。
異様だったのは、そのマンホールの上には黄ばんだ布の帯がX字に掛けられた上、その端に釘のような杭で床に縫い止められていた。
この時点で「うわっ・・・」という感じになっているのだが、さらにX字に掛けられた布の下にチラリと見えるもの。
これが明らかにヤバかった。
習字に使う半紙のような黄ばんだ紙に、赤色の梵字で書かれた御札的なものが何枚もベタベタと貼り付けられている…。
その場に居た全員が息を呑み、直後に逃げ出した。
そして、体育教員室のクーラーで涼んでいた担任を呼び出し、俺たちの見たものを説明する。
担任は、「はぁ?お前ら何言ってんの?」という顔をしながら聞いていたが、とりあえず確認するとなり、教員室にあった備え付けの懐中電灯を持って舞台下へと一緒に向かう。
担任が舞台下に入ってから数分後、中から出てくるや、「何かわからんが、とりあえずヤバそうだから掃除は中止だ」という言葉で、その場は解散となった。
それから約一か月後、夏休み明けのホームルームで担任から説明があった。
結論から言えば、あのマンホールは謎のままだった。
臨時の職員会議が開かれたそうだが、誰もマンホールの存在を知らなかった。
校長を含む数名の教師で再び現場を確認したが、結局は何もわからずじまい。
市役所を始め、電気やガス、水道局などの関係各所に確認するも、「そんな場所にマンホールは設置していない」とのこと。
学校建設当時の工事関係者や地元のご老人方、果ては近所のお寺にも確認したが、全く何もわからなかった。
最終的には、「あの雰囲気も不気味で、薄暗闇の中で10センチもある段差は危ない」ということで、夏休み期間中にマンホールや封印ごとコンクリートで埋めたそうだ。
後日談も特にないが、封印のような御札を踏み付けてしまった江口君は、今も地元で元気にしている。
考察(※参考)
普通に考えれば『枯れ井戸』だろうか?
オカルト思考だと、上を人が行き交う舞台下にそれを置いてあったことに意味があるのかもしれない。
例えば、“犬神を培養していた”とか。
※犬神(いぬがみ)
犬神持ちの家の納戸の箪笥、床の下、水甕(みずがめ)の中に飼われていると説明される。 他の憑き物と同じく、喜怒哀楽の激しい情緒不安定な人間に憑きやすい…(Wikipediaより引用)
逆に、呪物をゆっくりと時間をかけて浄化していたとも考えられる。
よく舞台下のことを「奈落」という。
そう考えると、意味深な一面もあったりするが…。
ただ、この高校の建屋が出来る前は”何に使われていた土地”だったのだろうか。
(終)