目が覚めると少しずつ玄関に向かっている
これは、知人に聞いた話。
彼女は以前、家の玄関に電池式の人感センサーライトを置いていたそうで。
帰宅が大抵暗くなってからなので、いつも重宝していたという。
しかし一年程前、電池切れなのか、調子が悪かったことがあった。
点いて欲しい時には点かず、ありがちな話だが、何に反応したのか誰も通っていないのに点くこともあったという。
ちょうどその頃から、彼女は不眠気味だった。
眠れないというわけではないのだが、眠りが浅く、すぐ起きる。
夜半に起きずとも、寝た気がしない朝を迎えることが多かったという。
その傾向はだんだんと悪化していき、夢遊病のような症状も出始めた。
ふと目が覚めると、寝ていたベッドから移動している。
最初はベッドの隣に立っていた。
それが寝室のドアの外、廊下の中ほどと、少しずつ玄関に向かっているようだった。
そしてそんな時はいつも、誰もいない玄関のセンサーライトが煌々と光っていたという。
病院に行って薬も処方してもらったが、改善は見られなかった。
そしてある夜、とうとう目が覚めた場所は玄関で、しかも土下座のような形でうずくまっていた。
しかしそれは謝罪しているというよりは、まるで三つ指をついて客人を出迎えているようだったという。
いよいよこれは大変だ、どうしたものかと悩んだが、不思議なことにその日以降、夢遊病はおろか不眠の症状さえピタリとなくなった。
夜中に目覚めることはなく、朝も気持ちの良い目覚め。
今までは何だったのかと思えるほどだった。
そしてそれと同時に、電池切れだと思っていた玄関のセンサーライトも、不調が全くなくなったのだという。
彼女はそれを訝しむことなく、純粋に喜んでいた。
ところが、職場でポロっとその話をした時、一人の同僚からこう言われた。
「それって、誰かを外からお迎えしたみたいで気味が悪いね。もう出迎える必要はなくなったから、あなたの夢遊病もライトの不具合もなくなったんじゃないの?」
その後、彼女は私にこう言った。
「そう言われた途端ね、なんだか物凄い寒気がしたの。私のなけなしの本能が全力で同意しているみたいでね。
それで、家の中で何があったわけではないんだけど、すぐに引っ越したのよ。それが良かったのか悪かったのか、それはわからないけど、なんだかスッキリした」
私は大きく頷いた。
なぜなら話の途中から、彼女の同僚と同じことを想像してしまっていたから。
彼女は続けて言った。
「前の部屋ね、こないだ通ったらまだカーテンも掛かってなくて、入居者はいないみたい。いずれは誰かが入るんでしょうけど」
彼女がお迎えしたかもしれない”何か”は、まだその部屋にいるのだろうか。
(終)