20年前に初めて見たままの姿で再び
これは、私が小学生の頃の体験話。
バスで通学していたのだが、ある日に車内で凄くショッキングな人物を見た。
一見するとホームレスのような、小汚いトレンチコートに紙袋とボロボロの傘。
後頭部から全部を前に持ってきてハードスプレーで固めたような髪の毛の女性。
漫画の座敷女そのものだと今は思う。
私はギョッとしたものの、もしかしたら病気の人で具合がよくないのかもしれないし、あまり見てはいけないと思い、3つ上の姉の様子を伺った。
姉も、私と同じで見てはいけないものを見たとばかりに、下を向いて変な顔をしていた。
周りの大人たちは何も言わないし、車内の空気もいつもと変わりなかったように記憶している。
帰宅後、姉と私は先程の人物を『髪女』と名付けて母に報告した。
母は勿論まともに聞いてくれなかった。
それから20年、大人になった私の前に髪女が度々現れるのが不可解で仕方ない。
小学生の頃にバスで見たままの、変わらない姿で日常の中に紛れ込んでくる。
初めて見たのは東北の田舎町。
2回目は関東、3回目、そして4回目の今夜は中部地方で。
間違いなく同じ人物。
でなければ、あんな不審者が全国に散らばっていることになってしまう。
先ほど見た姿は、雨の中で反対車線を歩いていた。
ただ、傘を持っているのにさしていなかった。
不思議と恐怖心は湧かず、いつも「ああ、いるな」くらいの感覚で見ている。
真夏でも、真昼でも、繁華街でも、普通にいるからなのかもしれない。
同じ人物を見た、または知っているという人はいるだろうか?
(終)