ピアノの音に恐怖した奇妙な夜
俺はその日、疲れていた。
テレビを見ながら一人晩酌をしていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていた。
暖房器具がタイマー設定になっていたのだろう。
寒さで、ふと目が覚めた。
テレビは放送が終了し、カラーバーと共にピアノの曲が流れていた。※カラーバーとは、七色の縦の線が入った色の調整のために使用される色帯映像のこと。
寒さで目が冴え、酒しか飲んでおらず腹が空いていた俺は、テレビを消して近くのコンビニへ向かう。
肉まんとおにぎりをいくつか、それと温かいお茶を買って店を出た。
肉まんを頬張りながらの帰宅途中、どこの家からかはわからないが、ピアノの音が聞こえてきた。
「こんな時間に近所迷惑だな。まっ、自分の家の近辺じゃないからいいや」
そんなことを思いつつ、むしろどこからともなく聞こえてくるピアノの音に、耳を傾け楽しんでさえいた。
しかし、どうも聞いたことのある曲だ。
しかも、つい最近…。
思い出そうとさらにピアノの音に集中してみたところで、違和感に気がついた。
聞こえ始めた場所からはずいぶん歩いてきたのに、未だに音が聞こえる。
それどころか、音が小さくも大きくもなっていない。
なぜかはわからないが急に怖くなり、俺は家まで走った。
自分の家に着いて多少は安堵したが、まだ落ち着かなかった俺は、さっきのピアノの音を忘れたくてテレビをつけようとして気がついた。
目が覚めた時にテレビ画面に映っていたカラーバーから流れていた曲が、さっきまで聞こえてきたピアノの曲だった。
それに気がつくとほぼ同時に再びあの曲が聞こえてきたが、もちろんテレビはつけていない。
俺は布団に頭まで入って目を閉じた。
いつしか聞こえなくなっていたが、朝になっても眠れはしなかった。
翌日、友人に昨夜の出来事を話してわかったことがある。
この辺りで視聴できる放送局で、放送終了後のカラーバーにピアノの曲は使われていなかった。
(終)