作った保存食が失敗するのは縁起が悪い
これは、友人の祖母の話。
食事の半分は自給自足をしている田舎暮らしの人なので、漬物や干し野菜など、保存食をよく作るそうだ。
けれど、一つだけ作らないものがある。
それは『梅干し』。
祖母の畑には梅の木があり、毎年それなりに実をつける。
その実を使って梅酒は作るのに、梅干しは作らない。
「どうしてお婆ちゃんは梅干しだけ作らないんだろう?」
「昔は作っていたのよ」
ある時ふと漏らした友人の疑問に、彼女の母親は複雑な表情で答えた。
そして、その理由を教えてくれた。
「お婆ちゃんの梅干しはとても美味しかったんだけどね。
私が子供の時、その年に作った梅干しが全部カビちゃったことがあったの。
お婆ちゃんは『ああ、また・・・』って苦しそうな顔をしてね。
上手なお婆ちゃんが失敗するのも珍しいとは思ったんだけど、その時は何のことだろう?っていうくらいだったかな。
それから一か月しないうちに近親者が突然亡くなって、次の年から梅干しを作らなくなって。
理由を聞いたら、悲しそうな顔をして笑うだけ。
でもその顔を見た時に、たぶん前にも梅干しがカビた時に誰か死んだんだって、子供ながらになんとなく理解できた」
友人が「生モノだし偶然でしょ?」と問いかけると、母親は苦笑して答えた。
「二度あることは三度あるなのか、本当に偶然かどうか確かめるのって結構勇気がいると思うけど?」
(終)