夢の中で近づいてくる者
まずはじめに、もしこれを読まれたせいで何か起きたとしても責任が持てないので、読みたくない方は閲覧をお控えください。
<以下、本文>
私は東京都の西にある市に住んでいる。
これは、その市が地元の友人と私を含めた3人の計4人で、昨年末にお酒を飲んだ時に聞いた『でんでん』という話。
話をしてくれたのは、地元の友人。
友人は祖父から聞いたらしいが、この話を聞くと『でんでん』という者が夢に出てくるという。
なんでもこの話を聞いてから数日以内に、夢の中で自分が通学や通勤、コンビニに行く時なんかに使っている道が出てくるそうで。
大体がある程度まで先を見通せる一本道らしいが、その道の向こうから、還暦の時に着るような赤いちゃんちゃんこを羽織った中肉中背の何かが、両手の甲を上にした状態で腕を振りながら、でんでん、でんでんと音を立てながら走ってくる。
夢の中の自分は金縛りにあったような感じになり、その場を動けないそうで、その何かは自分にどんどん近づいてくる。
このでんでんという音は太鼓の音に近いのだが、鈍い音。
近づいてくるにつれて、顔や髪型もよく見えるようになる。
でんでんは短髪で、釣り目の小さい目で口元はニッと笑っており、裸足で肌着とももひきの上に赤いちゃんちゃんこを着ているそうで、また外見に関してはほとんどの人が同じものを見るという。
そしてその夢は、でんでんの顔が目の前にきて、ぶつかる!と思った瞬間に覚める。
話を聞いた時はお酒のせいもあり、ヒャァーとかキャーとか言うだけで、ただの怖い話程度に思っていた。
だが、私はこの話を聞いた2日後に、このでんでんが夢に出てきた。
前述した聞いていた話とまるで同じで、出てきた場所もよく行くお気に入りの定食屋に、行くまでの道のりもそのものだった。
私は怖くなってしまい、すぐにこの話をしてくれた友人に電話をかけた。
友人は慌てる私の話を聞くと、「怖い思いをさせてごめんね」と何度も謝りながらこう続けた。
「もし本当にそういう夢を見てしまったなら、可能な限り早くその夢と同じ場所に行き、『でんでんぶつかってごめんね。危ないからおうちへお帰り』と心の中で3回唱える必要がある」と。
またこれも大事なことで、それを行う時には守るルールがあるという。
・赤い物を身につけないこと
・夕日が沈む前に行うこと
・心の中で3回唱える際に目を瞑ること
・唱え終わるまで絶対に目を開けないこと
これらをきちんと行えば何事もないそうだが、行わないと悪いことが起きるそうで。
友人は実際に夢で見たことがあるらしく、前述したルールを守ったおかげか何事もなく、一度その夢を見てからは同じものが夢に出てきたことはないとのこと。
私は夢に出てきた場所が自転車で10分程の所だったこともあり、夢を見たその日のうちに話をしてくれた友人と一緒にその場所に行き、前述したルールを実行した。
翌日に実家へ帰ることになっていたが、予定を早めてその日のうちに実家へ帰った。
その後、年も明け、ちゃんとするべきことをしたおかげもあってか何事もなく過ごしていたが、三が日も終わって東京に帰ろうかと思っていた矢先、この話を一緒に聞いていた友人の一人から連絡がきた。
その友人の名前を仮に陽子とする。
普段はLINEでの連絡が多いが、この日は珍しく電話だった。
電話に出ると陽子は慌てた様子で、でんでんの話を聞いていたもう一人の友人の恵と連絡が取れないと言う。※名前は仮名
陽子と恵はバイトなどがあって年末に実家へ帰らなかったようだが、その日一緒に買い物や初詣に行くと約束していたらしく、私に連絡が入っていないか?とのことだった。
連絡はないことを伝え、「私からも恵に連絡してみる」と伝えて一度電話を切った。
すぐにLINEで恵に連絡をしたが既読はつかず、電話も電波が届かない場所か電源が入っていない状態とアナウンスされる。
結局、翌日に東京へ帰った私は、陽子と一緒に恵の家を訪ねた。
しかしチャイムを鳴らしても彼女は出てこず、二人して扉の前で途方に暮れていると、一人の女性が駆け寄ってくるや、「恵のお友達ですか?!」と慌てた様子で尋ねてきた。
話を聞くと、その女性は恵の母親らしく、大晦日から娘と連絡が取れず心配して父親と一緒に元旦に東京の恵の家へ訪れると、布団に包まって「でんでん、でんでん」と呟く恵がいたという。
一種の錯乱状態だったらしく、その時は近くの大学病院で検査をしていたそうで、母親は恵の着替えを家に取りにきた際、偶然私たちと遭遇したようだった。
恵の母親からは、何か恵が悩んでいたんじゃないか?とか、麻薬や違法ドラッグに手を出していたような心当たりがないか聞かれたが、私たちは「ないです」としか言うことができなかった。
私は正直、恵の母親から、でんでん、でんでん、と恵が呟いていたと聞いてから、体の震えが止まらなかった。
結局、恵はストレスからくる神経衰弱と診断されたらしく、大学を休学して今は実家の近くにある病院で治療を受けているとのこと。
私自身もこの一件があったせいか、ストレスで胃潰瘍になってしまい先日まで入院していたが、今は元気になった。
退院してしばらくは実家で過ごし、東京に帰ってきた。
(終)