鉄工所跡に建った三軒の家に住む人たちが皆・・・

更地

 

これは30年ほど前、俺がまだ小学生の頃の話。

 

我が家の道を挟んで向かいにあった鉄工所が潰れて更地になり、しばらくしてから家が3軒建ったのだが、そこに住む人が皆おかしくなった。

 

まず、一番端の角の家について。

 

中学生の男の子がいて、母親がもう一人妊娠中の家族。

 

最初の頃はよく男の子に遊んでもらったのだが、しばらくして挙動がおかしくなり、その年の暮れには近所の家の郵便受けを勝手に開けて「郵便でーす」と言いながら、泥やゴミを入れるようになった。

 

その後に生まれた二人目の女の子は何か障害があるらしくて、顔も見たことがなく、どんな障害かも不明。

 

俺の母が聞いた話では、「心臓の病気と障害」とのことだったので、もしかすると病院から出られなかったかもしれない。

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よくない場所なのか?

次に、二軒目の真ん中の家について。

 

幼稚園と就学前の二人の子と、両親の四人家族。

 

引っ越して来てわりとすぐに、父親の怒鳴り声、子供の悲鳴や泣き声、何かが割れる音や壊れる音、奥さんらしき人の「助けて!」という叫び声が聞こえて、何度も警察が介入していた。

 

しばらくして子供たちと奥さんの姿が消えた。

 

最後に、三軒目の家について。

 

息子夫婦と親が同居の予定だったが、家を買った直後に息子が転勤になったようで、結局は爺さんと婆さんの二人で広い三階建てに住むことになった。

 

爺さんは足が悪かったため、滅多に顔を見ることもなかった。

 

婆さんは元気で明るかったのだが、しばらくしてスーパーで万引きをした等の噂を聞いた。

 

婆さんは時々見かけていたが、以前はちゃんとした服を着ていたのに、いつの頃からかパジャマのような格好でうろつくようになり、髪もボサボサに。

 

その後、我が家の庭で大便をしたりするようにまでになり、うちの両親が庭に柵を作った。

 

おそらく認知症だったんだろうと今なら思うが、当時は怖かった。

 

そんな三家族だったが、この二軒目の父親のオッサンがよく三軒目の婆さんと揉めていた。

 

オッサンの「こっち監視すんな!」、「婆さんさっさと死ね!」、「一日中こっちを見てるぞ、この婆!」等と喚く声が聞こえていた。

 

窓から見ると、確かにベランダには婆さんが立っていて、オッサンの家の方を見ていた。

 

ただ、これだけでは違法にならないらしく、「警察呼ぶぞ!」と喚いて実際に警察が来ても、何もできないのだそう。

 

このやり取りは一年くらい続いたが、しばらくして婆さんの姿を見なくなった。

 

そんなある日、我が家へ婆さんの息子の奥さんが訪ねて来られ、「婆さんが病気で亡くなりました。お世話になりました」と頭を下げられた。

 

爺さんがどうなったのかは知らないが、その家には『売り家』の看板が掛けられた。

 

ところが、それ以後も二軒目のオッサンが連日のように喚き続けた。

 

「また婆さんがこっち見てる!」、「さっさと死ねよババア!」、「一日中こっち見てんじゃねえ!」と。

 

しかし今度は、窓から見ても俺には婆さんが見えない。

 

当たり前だ。

 

すでに亡くなってこの世にいないのだから。

 

それでもオッサンは喚き続けた。

 

俺に見えない婆さんが見えているのか?

 

それとも、もう完全に頭がおかしくなってしまったのか?

 

その後、我が家も引越しをしたので、あれからどうなったかまでは分からない。

 

ただ、結構新しい家のだったのにもかかわらず、数年後にそこら辺一体(件の三軒と旧の我が家も)は取り潰されて分譲マンションが建った。

 

たまたまそういうことが起きてしまったのなら問題ないのだが、もしその土地が悪かったり何かあるのなら、その新たに建ったマンションにも多少なりとも影響が出ないだろうかと少し心配でもある。

 

まるで、映画『残穢(ざんえ)』のような話。※リンク先はWikipedia

 

(終)

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