東北のある地方に伝わる「おあし」という神様
これは、『おあし』という神様の話。
父が若い頃、家に親戚のお嬢さんを預かっていたらしい。
お嬢さんはまだ高校生で、家庭の事情でしばらく父の家から学校に通っていたそうだ。
また、父の家は当時商売をやっていたので若い男が何人か住み込んでおり、そのうちの一人(仮に清水さんとする)とお嬢さんは何かいい雰囲気になってきていた。
毛むくじゃらの足
ある日のこと、お嬢さんと清水さんが一緒にコタツに入っていた。
・・・が、しばらくして、清水さんは顔を真っ青にして2階に上がって行ったかと思えば、凄い悲鳴が聞こえた。
普段はおとなしい男なのに何事かと思った祖父をはじめとした父の家族は、慌てて2階に行ってみた。
すると、清水さんは泡を吹いて気を失っていた。
完全に白目をむいており、死んでいるのかと思った父は相当に焦ったそうだ。
清水さんはその日はそれきり目を覚まさなかったので、看病は祖父母に任せて父は就寝したという。
お嬢さんも就寝したそうだ。
次の日の朝、清水さんが起きてきたので、一体何があったのかを問い詰めた。
話すのを躊躇っていたが、宥めすかして話させると、こういうことだった。
昨日、お嬢さんと二人でコタツに入っていたら、足が自分の膝にツンツンとよく当たる。
最初はただ当たっているだけだったが、だんだんと膝から太ももの辺りを撫でるように動きだした。
お嬢さんとはいい関係になってきていたこともあり、清水さんはお嬢さんがそうしているものだと思った。
そして、ドキドキしながらその足を触ってみると、毛むくじゃらで筋骨がたくましい男の足としか思えない足だった。
ギョッとしてお嬢さんを見ると、なんだか恥ずかしそうに俯いており、男みたいな足だけどお嬢さんの足なのか・・・と、釈然としないながらもその足を触っていた。
しばらくすると、お嬢さんがコタツから出た。
・・・が、彼はその足を触ったままでいた。
ワケが分からなくなってコタツ布団をめくると、何もない。
途端に気分が悪くなり、2階に上がって寝ようとした。
そして布団に入ってしばらく震えていると、またさっきと同じ感触がし始めた。
思わず飛び起きて、布団をはいでみた。
すると、そこには黒々とした脛毛のたくさん生えた紛れもない男の筋骨がたくましい足が転がっており、しかも親指をクイックイッと動かしたそうだ。
足の裏にはマメらしきものがあるのもはっきり見えたという。
思わず悲鳴を上げ、その後は翌朝に起きるまで気を取り戻さなかった。
その後も清水さんはしばらく父の家で働いていたが、夜は時々同じように悲鳴を上げ、家中を騒がせていた。
なにより、布団やコタツといった、めくって中に入るものを怖がるようになり、だんだんと精神も不安定になったので実家に帰らせたそうだ。
清水さんがそんな状態だった時、お嬢さんは「それはきっと『おあし』だ」と言ったそうだ。
それに、お嬢さんは特に怖がる様子もなかったとか。
なんでも、どこの地方か忘れたが、東北の辺りで言い伝えられている神様(精霊)らしく、お嬢さんはその地方の出身だった。
月日は過ぎ、お嬢さんも父の家から出て行かれ、父もそれきり会っていなく、今どうしているのかも知らないので、詳しい話を確かめることも出来ないという。
(終)