浴室に居ると人の視線を感じていたワケ
これは、大学時代に住んでいた部屋が実は『事故物件』だった話。
私には霊感なんてないし、そもそも霊の類を信じていなかったが、その物件を内覧した時に一緒にいた母が浴室を気にしていた。
なぜなら、当時で築5年だったが、3点ユニットバスの浴室だけがピカピカだったから。
不動産屋の担当者曰く「交換しました」との返事だったが、「水回りの工事はお金がかかるから、たった5年で交換というのはおかしい」と母は言う。
それでも相場からみて家賃も安いし、憧れていた沿線と街だったので私は即決した。
シャワーカーテン越しに・・・
異変に気付いたのは入居した日からだった。
部屋に居る時は何も感じないが、浴室に居ると人の視線を感じる。
用を足している時、顔を洗っている時、シャワーを浴びている時。
でも小学生の頃に、『頭を洗っている時に後ろに人の気配を感じたら・・・』なんたらの怪談話が流行っていたりしたから、無意識に怖いシチュエーションを作り出しているんだろう、ぐらいにしか思っていなかった。
しかし、入居して3ヶ月ぐらい経った頃、事件は起きた。
湯船に浸かろうと、いつものようにお湯を入れていて、溜まった頃に見に行くと、開けっ放しだったはずのシャワーカーテンが閉まっていた。
さらには、水玉模様の半透明のシャワーカーテン越しに、明らかに『人』が浸かっているのが見えた。
私は立ったまま金縛り状態に。
カーテン越しに、その人は私に気付いてこちらを見る。
そしてゆっくり立ち上がった時、体格でその人が男性だと確信した。
彼がカーテンを開けるその瞬間、私は「絶対に見てはいけない!」ととっさに判断し、叫びながら共用の廊下を走ってマンションを出た。
そのまま公衆電話から実家に電話をかけて、弟と父に迎えに来てもらった。
その後、同じマンション内に住む住民にオートロックを解除してもらい、出し放しのお湯を止めて、貴重品と着替えを持ってとりあえず実家に戻り、翌日に不動産屋を訪ねた。
担当者に事情を聞くと、「新築時に入居した男性が浴室で、包丁で首を切って自殺をした」とのことだった。(自殺の動機は不動産屋も分からなかった)
結局すぐに部屋から退去することにしたが、敷金は勿論、礼金まで戻ってきた。
そして部屋を明け渡す際、浴室の点検口内に塩ビに入った『御札』を見せてもらった。
また、私が退去した後に大々的な御祓いをやったらしく、その後の入居者には何も問題ないとのこと。(退去して1年後ぐらいにそう聞いた)
場所は、中央線沿線の杉並区内、4階建ての4階部分で、全室西向きのワンルームマンション。
ちなみに今は浴室、トイレ、洗面台がセパレートの物件に住んでいるが、恐ろしい体験をしたのはあの部屋に住んでいた時だけで、今は何もない。
頭を洗っていても、背後に人の気配も感じない。
(終)