訳ありでも安い物件を探していると

1K 部屋

 

田部井さんが学生の頃、

 

同棲していた彼女に

浮気が原因で家を追い出され、

 

友人宅に泊まり歩いていた時期が

あったという。

 

一ヶ月もすると

友人たちからも疎ましがられ、

 

いよいよ自分の部屋を

探さなければならなくなった。

 

だが、金は無い。

 

友人に相談すると、

訳あり物件の存在を教えられたという。

 

それいいね!って思ったそうだ。

 

昔からお化けとか幽霊の類は

信じていないらしい。

 

目に付いた不動産屋に飛び込んだ。

 

不動産屋の担当者に、

 

『訳あり物件でもいいから、

安いところを教えてほしい』

 

と注文したそうだ。

 

明らかに乗り気ではない

若い担当者を説得し、

 

田部井さんはすぐに内見を頼んだという。

 

物件は車で10分ほどの場所にあった。

 

向かっている最中に

半ば好奇心で尋ねると、

 

“首吊り自殺があった”と、

渋々ながら教えてくれた。

 

田部井さんはそれを聞いても、

特に感じるものはなかった。

 

関東は震災や戦争で、

あちこちで人は死んでいる。

 

いちいち怯えることはない。

 

車から「あそこです」と、

 

指を差されたマンションは

すぐに分かった。

 

真っ黄色の外壁をしていたからだ。

 

異様な色彩だったが、

造り自体は立派なものだった。

 

案内された部屋に入ると、

広さも申し分ない。

 

ただ昼間にしては、

やけに昏かったという。

 

※昏い(くらい)

「日暮れ」や「夕暮れ」の明るさを指す他、「目がくらむ」や「意識を失う」という意味もある。

 

「窓は大きいのが付いていたんですけど」

 

玄関のたたきで靴を脱ぎ、

キッチンを通り抜けてリビングに入る。

 

※玄関のたたき

玄関のコンクリートの土間の部分。

 

1Kだ。

 

人が入れそうなクローゼットもあり、

天井も高い。

 

だが、床が変色していた。

 

ピン!ときた。

 

血痕か何かの汚れを、

 

薬品をぶちまけて掃除したのだろう

と推測した。

 

すでに聞いていた家賃は、

相場からは随分と安いものだったが、

 

これを指摘すれば、

さらに安くなるかも知れない。

 

田部井さんは担当者に声をかけた。

 

「すいません。

ここちょっと見てもらえます?

 

だいぶ変色してますよね」

 

「あ・・・そうなんですか・・・」

 

担当者は玄関のたたきから動かない。

 

「ほら、ここですって」

 

「はぁ・・・なるほどですね・・・」

 

「あの、そこからじゃ見えないっすよね」

 

呆れて田部井さんは溜息をついた。

 

「ほんと苦手なんです。

 

お客さんに言っちゃいけないんですけど、

自分、こういうの本当に苦手なんです」

 

「何にも無いっすから。

 

一瞬だけ、

一瞬だけ確認してください」

 

不動産屋の担当者は、

 

「ほんとなんですよ・・・

これ系はダメなんですよ・・・」

 

と、ぶつぶつ呟きながら

靴を脱いだ。

 

田部井さんが指差す床を見る。

 

「・・・うーん、

だいぶ変色してますねぇ」

 

「ですよね。

これだったらもう少し・・・」

 

クローゼットの隙間に気づいたのは、

二人同時だった。

 

薄闇から『腕』が見えた。

 

土のように濁った色の『腕』が見えた。

 

二人は押しのけ合うように、

急いで部屋から飛び出した。

 

そのマンションは、

 

外壁の色を一般的なグレーに

塗り替えた今でも、

 

その部屋だけは空き部屋のままだという。

 

(終)

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