「女優の卵の幽霊が出る」という噂の劇場にて
撮影現場では、映像に映り込んだ霊を撮影時には気付かなかったという事象はよくあるが、一度その逆のパターンを経験したことがある。
場所は都内の小劇場で、それはマチネ(昼の部)の上演中の時だった。
私は演出家に頼まれて照明室から舞台を撮影していたが、芝居の途中で突然客席がざわつき、直後に女性客から小さな悲鳴が上がった。
ざわめきは1~2分で収まり芝居は続行したのだが、後から聞いたところによれば、「演技している役者達の後ろを、女性の腰から下部分の薄い残像みたいなものがスーっと横切った」という。
しかし、レンズ越しで覗いていた私には何も見えなかったし、観客にも気付いた人と気付かなかった人がいた。
ならば映像で確認してみようとスタッフ達と見てみるが、何も映っていなかった。
ただ、観客やスタッフに「見た」という人が複数いたので、ソレらしいものが出たのは間違いないのだろう。
ちなみに以前から、この劇場には『自殺した女優の卵の幽霊が出る』という噂はあったが、役者に未練があるのに映像に映らないということに、この女性の幽霊の、暗く歪んだコンプレックスのようなものを感じた。
亡くなった方にこう言うのも申し訳ないが、生きていても芸能界では成功できなかったんじゃないかな、と思う。
(終)