墓参り中に脳へ直接声が聞こえ始める

 

これは、ある夏に起きた私の体験談。

 

仕事で隣県まで車で行く機会があり、そのルート上に妻の実家の墓があった。

 

正月に家族で行って以来なので、ついでに墓を訪れた。

 

時間もないのでロウソクを灯し、線香をあげ、目を閉じ手を合わせた。

 

その時だ。

 

何処からともなく、いや、脳に直接入るように、老人男性の語る声が聞こえ始めた。

声の主は御先祖様？

耳鳴りなどではない。

 

近くに誰もいない。

 

きっと、妻の御先祖様が何かを伝えようとしている。

 

私は目を閉じ、耳を澄ませた。

 

澄ませたが、困った。

 

声が小さいのだ。

 

墓の横は幹線道路。

 

ダンプの車が通る音や、バスのクラクションにかき消されて聞き取れない。

 

私は御先祖様と会話を試みた。

 

「あの･･･御先祖様･･･。折角ですので、もう少し聞き取りやすい大きな声で伝えていただけないでしょうか？」

 

そう念じたが、声の調子は相変わらず。

 

よく聞いていると、聞き取れないのは声の大きさだけではない。

 

酷く訛（なま）っている。

 

これはこの地方の方言だ。

 

しかし、感じが随分と違う。

 

また、妻の御先祖様は武士らしいが、「～なるぞ」とか「～あるぞ」などが語尾に付く。

 

どうやら武士の言葉遣いでもあるらしかった。

 

時間にして３分くらいだっただろうか。

 

最後に挨拶らしい短い言葉を幾つか語って、声は耳から消えた。

 

何か私に伝えたらしかったが、何を言っているのかまるで分からなかった。

 

私は咄嗟に、「御先祖様、何を言っているのか分からなかったので、もう一度お願いできませんか？」と念じたが、もうそんな声は聞こえなかった。

 

しばらくして、私はふと思った。

 

「ひょっとして私が理解できなかったばかりに、家族に災厄があるかもしれない」

 

妻にこの出来事を話し、３連休を利用して家族で墓を訪れた。

 

「御先祖様、言葉が私より分かる妻を連れてきました。どうか妻に、もう一度語りかけて下さい」

 

しかし、妻には声など聞こえなかった。

 

その後、妻の両親も連れて行った。

 

「御先祖様、どうか･･･」

 

しかし、結局なしのつぶて。

 

あの時の語りかけは絶対に間違いないと思う。

 

だが、なぜ妻の御先祖様とは血の繋がりのない私にだけ語りかけたのか？

 

訳が分からない。

 

今のところ家族には何の災厄もない。

 

せいぜい自転車で転んだとかそれぐらいだ。

 

ただ、これから災厄があるとして、それを御先祖様が事前に伝えようとしていたのなら、もっと分かりやすく伝えて欲しい。

 

（終）