脳の奥に話しかけてくる女性の声
これは、山口県周南市のとある場所での話。(2003年4月までの徳山市。合併による)
その沖に船で20分ほど走ったところに、大津島という『人間魚雷回天の基地』がある。
余談だが、『出口のない海』という映画で登場している。
その基地の脇へ瀬渡し船で渡してもらい、久しぶりに一人でアジの夜釣りをしようと思った時のこと。
その日は暗闇の大潮で、入れ食い状態だった。
おそらく2時ぐらいだったか、真剣に浮きを見つめながら次の当たりを待っていた。
すると、何処からともなく、まるでテレパシーのように脳の奥に話しかけてくる女性の声が聞こえた。
「釣れますか?」と。
背後に視線を感じたが、釣る方に夢中で振り返ろうともせず浮きを見つめていると、「あのう、何匹か頂けたら嬉しいんですが・・・」と遠慮がちに口篭った。
俺の頭の中にはその女性の姿がはっきりと見えたが、釣ることで他の神経が麻痺していたのか、まったく怖いとは思わなかった。
なので、俺はクーラーボックスの蓋を開けて、右手で自分の左脇の後ろの岩の上に釣ったアジを置いた。
数分後、我に返った俺は、さっき確かに話しかけられたと思ってゾッとなった。
後ろの岩の上を見ると、確かにさっきアジを置いた岩が濡れていたが、アジは無くなっていた。
冒頭でも書いたが、もし映画『出口のない海』を観る機会があれば、そのコンクリートで出来た発射基地の左側がその時の現場だ。
ただ、此処へは船以外で簡単に来れない。
(終)