途切れた道は放置すると黄泉に続く

道路

 

これは、友人のテツオ(仮名)から聞いた話。

 

この話を自ら体験して教えてくれたのは、テツオの友人のアキラ(仮名)

 

アキラの実家は近畿地方のとある山間部にある。

 

働いているのは大阪の街中で、ここ数年は帰省していなかったこともあり、お盆休みを利用して久しぶりに田舎へ帰ることにした。

 

久々の実家、地元に帰ったアキラは幼なじみのテツオに会うために、「隣の町まで原付きを飛ばして行く」と電話で伝えた。

 

数年ぶりに会うアキラからの電話でテツオも大喜びし、「すぐに来い」と言った。

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女の笑い声

昼前に原付きに乗り、懐かしい道を走っていけば30分ほどの距離。

 

走り始めて国道に出る手前で、ふと見上げると、新設された国道が山の中に向かって続き、標識が隣町まで続くと示していた。

 

「これならいつもより早く行ける。このあいだお袋が言ってたのはこれかぁ」

 

そう思ったものの、懐かしい道を走る方を選んだアキラは、そのまま以前からある国道へ。

 

走りながら、「でも、まだ建設中だって言ってたけど、もう通じてるじゃん」と思う。

 

隣町に着いてテツオに会い、昔話に花を咲かせているうちに夕刻になった。

 

「そろそろ帰るわ」と言うアキラに、「今夜は泊まっていけや」と引き止めるテツオ。

 

「明日には大阪に戻るから。正月にでも帰って来るから、その時は泊めてや」

 

そう言い残し、帰路についた。

 

山間の日暮れは夏でも早く、すぐに夕闇は漆黒の闇へと変わっていった。

 

家路を急ぐアキラの目に、先ほどの新設された国道への入り口が目に入った。

 

「これなら早いだろうし、もう出来ているようだからこっちで帰るか」

 

アキラはバイクを傾けて、進路を山に向けて走り出した。

 

舗装したての路面は田舎道とは違い、滑らかにタイヤを運んでいく。

 

闇の中でも勝手の知った地元だからか、怖いこともなく軽快に走っていけた。

 

そして山の中腹あたりに差し掛かった時、アキラの耳に何かエンジン音とも路面の音とも違う、聞き慣れない音が流れてきていることに気づいた。

 

「なんだ?何の音?」

 

聞き流していたのだが、その音は徐々に大きくなり、そしてはっきりと聞こえるようになる。

 

「ウフフフ・・・アハハ・・・フフフ・・・」

 

明らかに女の笑い声だった。

 

「なんだ!?こりゃヤバイぞ!」

 

必死になってその声を振り切るようにアクセルを回す。

 

しかしその声は、とうとうバイクの真後ろで聞こえるようになった。

 

「ダメだダメだ!後ろに乗られた!」

 

もう振り返ることも、ミラーを見ることもできない。

 

ただライトが照らす路面だけを見つめながら走り続けるアキラ。

 

「降りろ!降りろ!」

 

心だけでなく、声を出して叫ぶ。

 

しかし、女の声はより近くなり、とうとう息がかかるほどに。

 

「助けてくれ!」

 

その瞬間、何かに乗り上げたようにバイクが大きく弾んだ。

 

ガシャン、ギャギャギャ。

 

バイクは転倒し、滑っていく。

 

アキラも道に投げ出され、丸太のように路面を転がっていく。

 

「アイタタタ・・・」

 

幸いにも、それほど外傷はないようだった。

 

ゆっくりと立ち上がってバイクに向かうと、バイクも幸い、傷と多少の破損程度でまだ動く。

 

しかし、アキラにはそれよりも大きな恐怖がその先に待っていた。

 

ライトの明かりが点いたままのバイクの所までフラフラ歩いていくと、そこにはまだ建設中でその先にはただの断崖になってるだけの道路が照らし出されていた。

 

「うわぁ!もう少しでこの下に・・・」

 

震えるような恐怖に突き落とされたアキラを、さらなる恐怖が襲った。

 

崖下を見つめるアキラのすぐ横、息が耳にかかるほどの距離で、さっきの女の笑い声で「ちくしょう・・・」と言ったのが聞こえた。

 

まさに失禁をしそうな恐怖でアキラはバイクに跨ると、来た道を急いで戻った。

 

そこには上ってくる時には全くなかったと思われた、通行禁止のバリケードと看板があった。

 

そこを縫うように走り、半狂乱で実家にたどり着いたアキラ。

 

事情を家族に話し、バイクの修理を頼んだ。

 

傷の手当てをした母が、「だからあそこはまだ工事中やて言うたろ。お前が3人目になるとこやったで」と言った。

 

その建設中の国道では、すでに2人が事故で亡くなっているという。

 

それに、『途切れた道は放置すると黄泉に続く』と言われていることも聞いた。

 

(終)

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