霊安室に落ちていた大量の髪の毛を

霊安室

 

これは、伯母から聞いた奇妙な心霊話。

 

伯母は暴力旦那から逃げて母子家庭になり、ありついた仕事が病院の清掃。

 

手術室だけは専門業者が清掃をするが、病院全般の清掃が主たる業務。

 

ただ、清掃中に容態が変化した患者を見つけて看護師さんを呼んだり、苦しむ人が救急で運ばれてきたり、亡くなられた患者を見る機会もあったりで、精神的にキツかったという。

 

そして当然、霊安室や解剖室の清掃も行う。

 

清掃は基本二人一組で行い、伯母の相棒は榎本さんという、テキパキしていて口数も多い明るい人だった。※名前は仮名

 

ある日、霊安室の清掃をしていると、榎本さんが『大量の長い髪の毛』を見つけた。

 

時々落ちていることはあるそうだが、かなりの量があったらしく、「ガン患者さんが亡くなったのかねえ」と話をしていた。(抗がん剤治療で大量の髪が抜ける人がいるため)

 

翌日も二人で霊安室へ向かうと、同じ場所にまた大量の長い髪が落ちていた。

 

伯母は驚いたが、榎本さんは「もしかして幽霊でもいるのかな?」と、少し興奮気味に言った。

 

さらにその翌日も、霊安室に行くとやはり髪が落ちていた。

 

榎本さんは「本物の幽霊かも!」と、物凄く興奮していた。

 

榎本さんはオカルト系が好きらしくて、「ここに監視カメラを付けたら幽霊が映るかも」など、延々と幽霊について語っていたとか。

 

翌日もいつものように病院へ行くと、班長から「榎本さんが事故に遭ってしばらく休むから○○さんと組んで」と告げられた。

 

伯母は心配をして榎本さんにメールをすると、その日は返事がなかったが、数日後に入院していると連絡があり、お見舞いに行った。

 

しかし、最後に会ってからわずか数日しか経っていないのに、榎本さんはとてもやつれた印象で、左の肘から先が切断されていた。

 

話によれば、道を歩いている時に突然何かにカバンを引っ張られて転び、そのまま車に左腕を轢かれて潰れた、とのこと。

 

さらに榎本さんは怯えながら、「あの霊安室、絶対に何かいる!髪を取り返しに来たんだ!!」と泣き喚いた。

 

伯母は「髪がどうかしたの?」と聞くと、なんと榎本さんは霊安室に落ちていた髪の毛を捨てずに、封筒に入れて持ち帰ってしまったと白状した。

 

友人に『幽霊の髪』と自慢するために。

 

パート終了後に一旦帰宅し、幽霊の髪を行きつけの飲み屋に行って飲み仲間に見せてやろうと思って出かけた時に事故に遭ったそうで。

 

その時にカバンの中身は散乱したが、どれだけ探しても髪を入れておいた封筒は見つからなかったという。

 

伯母はそれ以降も霊安室の清掃をしていたが、あんな大量の髪が落ちていることはなかったとのこと。

 

(終)

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