山小屋にたどり着き入ってみたものの
これは、俺のじいちゃんから聞いた話。
じいちゃんは山登りが好きで、正月はいつも山の上で初日の出を見るくらいな人だ。
じいちゃん程の登山レベルになると、富士山など有名な山は雰囲気が俗っぽいからという理由で、あまり知られていない山で見たいと言う。
その年も日の出に時間を合わせて暗いうちから登り始めたのだが、すれ違う人もいないくらい寂しい山だった。
8合目辺りに山小屋があるということで、そこで3時間ほど休んでいけば日の出の頃には頂上に着く予定。
じいちゃんはその山小屋を目指して登っていた。
6合目、7合目、すれ違う人の数も未だ0人。
8合目の標識を過ぎて少し行くと、山小屋が見えてきた。
ただ、なんとなく不気味な雰囲気だったという。
ドアはしっかりと外から板で止められてあり、おかしいと思いながら裏に回った。
裏口は少し開いていて、じいちゃんはノックをしないで入っていった。
中には、『6人』の人たちが川の字になって寝ていた。
じいちゃんは少し怖くなったが、みんなを起こさないように空いているスペースで横になった。
少し疲れが取れると、その場の雰囲気が無性に怖くなり、辺りを見回し始めた。
すると、そこで寝ている人たちのリュックやらの装備がどこにもないことに気づいた。
それに、シーンと静まり返っているのも異常すぎた。
イビキも聞こえない。
あまりにも静かだった。
怖くなったじいちゃんは、時間を切り上げて頂上に向かうことにした。
素早く身支度をすると、裏口から急いで出て行った。
8合目を登りきり、9合目の標識を通り過ぎた頃にようやく恐怖が薄れ、調子を取り戻し始めた。
そして、ついに頂上が見えてきて、じいちゃんは胸が躍り始めた。
念願の頂上に着いた。
まだ日の出前だったので辺りは真っ暗だが、綺麗な星空が心を癒してくれた。
頂上を散策しているとリュックが置いてあることに気づき、一番乗りではなかったことを残念に思いながらも人を探し始めた。
だが、狭い頂上でいくら探しても人を見つけられない。
じいちゃんは不審に思ったという。
その時、日が昇り始めた。
綺麗な日の出に感動して、写真を撮ったりして満喫したじいちゃん。
帰ろうとした時、リュックを数えてみると数は『6個』。
じいちゃんは人がいないことを事故か何かかと考え、山岳救助隊に連絡をしようと考えたが頂上は圏外なので、下山してから問い合わせることにした。
ふと下山の途中、リュックと山小屋で寝ていた連中が関係があるのかもしれない、と思い始めた。
帰りに山小屋へ寄ってみることにしたが、山小屋が見つからない。
8合目の標識からすぐの所のはずだが、いくら探しても見つからない。
不審に思いながらも、迷いそうになったので登山道に戻り、下山を開始した。
そして、7合目の辺りで別の山小屋を見つけた。
その山小屋はとても綺麗で、中から光も漏れている。
山小屋に向かい、中に入ると、管理人が朝食の準備をしているところだった。
じいちゃんを見た管理人は親切にお茶を入れてくれ、世間話を始めた。
じい「登る途中で山小屋に入って少し仮眠したんですよ」
管理「え?この山にある山小屋はココだけですよ?」
じい「おかしいですな。山小屋に人が寝て休んでましたよ?」
管理「もしかして・・・6人じゃなかったですか?」
じい「そういえば6人いましたよ」
管理「他にも何か見ませんでしたか?」
じい「リュックがちょうど6つ山頂にありまして、事故かなんかかと」
管理「二度とこの山には登らない方が良いでしょう。二度目はもうないですから」
じいちゃんはあまり話したがらないが、もう少しその話をしてくれた。
管理人との話には続きがあった。
じい「ど、どういうことですか?」
管理「8合目から頂上の間を何年も往復しているパーティがあるようなんですよ。私も登山者からの目撃談を聞いてるだけですが、8合目に山小屋があって、その山小屋に入ると人がいるらしいんです。ですが、彼らと話した人はいませんよ。変わった雰囲気の人たちでね。装備は持っていないことが多いようで」
じい「幽霊かなんかですか・・・怖くなってきましたが・・・」
管理「関係があるとすれば7年前の事故が思い当たるんですが。それからそういう目撃例が増えまして、リュックだけが頂上にあるのも有名な話で。救助隊にそのことを言っても、今は相手にしてくれないと思いますよ。帰りは一人で下山しない方が良いでしょう。私の知り合いが来る頃なので、その人と下山したらどうですか?そのパーティに加わりたくないでしょう?」
管理人によれば、その6人は頂上から8合目を往復し続けているという。
彼らは登山者に憑いていくことが多く、じいちゃんにずっと憑いて来ている可能性があるとのことだった。
また、目撃した人たちが下山すると事故に遭うことも多く、その山に慣れた人と一緒でないと遭難することも多いという。
(終)