上へ行かれます?やめたほうがいいですよ
これは、青梅市の『御岳山』に二人で登った時の話。
新緑の季節だったので、6月頃だと思う。
あと少しで見晴台と頂上方面への分かれ道に差し掛かる一本道で、下山して来る男性と遭遇した。
その男性は傍目にもわかるほど真っ青な顔をしていて、ひどく落ち着かない様子だった。
「上へ行かれます?」
そう訊く口調に否定的なものを感じ、「どうかしましたか?」と返すと、どうやら“出た”ようだったが、彼も興奮していて説明はいまいち要領を得ない。
「急に気持ち悪くなって・・・。霊感なんて全くないのにこんなのは初めてで・・・」
どうやら見たわけではないらしく、具体的に何があったかもわからないが、不思議なもので「私、霊感あるんです」と言われるより説得力はあった。
男性は人と会えて話せたことで少し落ち着いたようで、「やめたほうがいいですよ」と言って下りて行った。
私自身には霊感なんてものは全くなく、霊体験すら一度もない。
どうしようかと迷っていると、同行者が「幽霊ってのはあると思う。山は特に」と言う。
仕事柄、普段の言動からもリアリスト(現実主義者)だと認識していた人にそう言われたことで、急に怖くなった。
結局、空模様は曇りだったが途中の見晴台でお昼をとり、そこで折り返して下山した。
ニアミスだが、これが私の唯一の霊体験なので今でも気になっている。
あそこには何かあるのだろうか?
(終)