何かが普通の山とは違った場所にて
これは、弟と山へ虫取りに行った時の話。
僕が小学5年生の夏のこと。
その山は、そこそこカブトムシやクワガタが取れる山だった。
でもいつものポイントで取り尽くしてしまったのか、その日はコガネムシやカナブン、ハチしかいなかった。
僕は弟に「今日は違うところに行こう」と言って、その場所を出た。
そしてその山の普段は行かない場所に、一ヶ所だけ獣道のようになっている所があるのを思い出した僕は、弟とそこへ向かった。
場所が特定されるかもしれないが、僕の地元は、夏場は大体35〜37度は毎日で、一度40.9度を記録したこともある。
獣道の入り口に着いて弟と山中に入った瞬間、冷凍庫の中にいるかのような寒さを感じて全身に鳥肌が立った。
元々霊感があった僕はとっさに「ここ、やばいかも…」と思ったが、小学5年生の僕はカブトムシやクワガタの方が大事だった。
そして弟と山の奥へ行こうとして、ふと違和感を感じた。
山に入った時にも感じていたが、何かが普通の山と違う。
太い木もあるが、幹が20センチくらいの細めの木ばかりで、その木の全ての下には”祭壇のようなもの”が置いてあった。
それも1つ2つではなく、数十個という単位で。
その祭壇のようなものは箱だったり石だったりと台は様々だったが、共通して朽ちた花が活けてあり、盛り塩があったであろう小皿におちょこが置いてあった。
田舎の山に入った時、そこで亡くなった人の供養の為にそういったものを置いたり石の塔を作ったりしていることがあるのは知っていたが、それにしては量が異常だった。
「これは本当にやばいかも…」と思ったその時、前方の木から“灰色の年配の男”がこちらを見ていた。
でも、おかしかった。
本来なら見えるはずの体が見えなかった。
前述の通り、幹の太さは大体20センチだ。
何かがいるのを確信した僕は、弟に「山から出ろ!早く!」と言って山から出し、自分も出ようとした時に、何を思ったのか振り返ってしまった。
そこには見渡す限り視認できる木の全てから、老若男女たくさんの人がこちらを睨んでいた。
怖くなった僕は、弟と家へと急いだ。
後日に聞いた話では、その町は戦時中に大空襲を受けたという。
(終)