背後から転がってきたヤカン
これは、知り合いが体験した話。
夕暮れの山道を下山していると、背後より何かが大きな音を立てて迫ってきた。
振り向いて見ると、ガラガラと騒がしく、ヤカンが転がってくる。
「なんでヤカンがこんな山中に?」
疑問に思っていると、ヤカンは狙ったかのように彼の足下でピタッと止まった。
じっと見ていると、どうしてか、目の前のそれを思いっ切り蹴飛ばしたくなった。
足を振り上げて、ハッと我に返る。
「いやいや、蹴っちゃいかんだろ。落とした人が追って来ているかもしれんし」
頭を振り、拾い上げようと足下に手を伸ばす。
次の瞬間、ヤカンは『男の生首』に変化していた。
口から赤い筋が垂れていて、恨めしそうに彼を睨んでいる。
「惜しかった…」
首はそれだけを口にしてから、すぅっと消えてしまったという。
(終)
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