お地蔵さまからのお願い事
これは私が小学低学年の頃で、今から35年ほど昔の体験話。
住まいは都内の城南地区。
我が家は自営だった為、家には仏壇と神棚があり毎日お参りはしていたが、宗教を信仰していたりというのは特にない家庭だった。
ある日の休日、母が朝食の時に「不思議な夢を見た」と話し出した。
首都圏内の某山の上に朽ちかけた祠があり、そこから声がするという。
声の主は神様か仏様かわからないが、人のような形で右肩から血が出ていた。
そして、その人のような存在から「痛くてどうしようもないから治しに来て欲しい」と、お願いされたそうで。
私と父はもちろん、夢を見た母自身も何のこっちゃの状態だったが、母曰く「やっぱり気になる」と。
その日は休みの日にしては珍しく早起きしたので、「じゃあドライブがてら、そちらの山の方に行ってみよう。何もなかったら近くの牧場でも行けばいいし」となり、出発した。
目的の場所に到着して、遊歩道を歩きながら進んで行くと、母が声を上げた。
見ると、「夢に見た小さな祠と同じ」と言う。
祠は誰も手入れをしていないようでボロボロになっており、中には小さなお地蔵さまが一体。
それに、肩の辺りが大きく破損していた。
ただ、治すなんていっても、どうすればいいのかわからない。
結局、祠の上に大判のハンカチを掛け、飛ばないように石を乗せ、お地蔵さまには手ぬぐいを巻いて手を合わせ、「どうしたもんか…」とみんなで考えた。
近くに知り合いがいるわけでもないので困ったが、とりあえず「また来ます」とお地蔵さまに伝え、下山した。
そして車に乗ろうとしたところで、地元の人と思われる中年の男性に出会った。
私たちは意を決して声をかけて、母の夢の話と、ここであったことを伝えた。
すると、男性はビックリしていたが信じてくれて、「じゃあ、町会だかに話しておくよ」と言ってくれたので、お礼を伝えてその場を離れた。
数ヶ月後、またドライブがてら様子を見に行ってみたところ、祠には綺麗な屋根が付けられてあり、お地蔵さまもちゃんと治療してもらえていた。
それに、綺麗なお花やお茶も供えられていて、誰かが管理してくれているようだった。
穏やかな気持ちで下山すると、これまた地元の人と思われるおばあちゃんがいたので、父が話を聞いてみた。
すると、あの時の男性がすぐに町会に掛け合い、祠もお地蔵さまも直してくれたそうで。
また、地域の人が山菜採りやら何かの時に「ついでだからねぇ」と、お参りもしてくれるようになったとか。
ただ、それまでそんな所に祠があるということを誰も知らなかったようで、「それほど奥まった場所でもないし目立つのにねぇ」と、地域の人たちも不思議がっていたと。
またそこへ行きたいが、母は詳しい場所を忘れてしまったらしく、父はもう他界しているので再訪は難しいが、あのお地蔵さまが今でも大事にされていたらいいなと思う。
(終)